映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」強さと弱さ、反転する人間の本性(ネタバレ有
たぶん苦手な種類の映画なのだろうな〜と思って見ていなかったけど、今年の賞レースであまりにばりばり強すぎるので気になって見てしまった。見終わってからジワジワ来る作品。
Netflixで見たけど、映画館で集中して味わって見たほうがよかったかもと思う。そして絶対ネタバレなしで見た方が良い!見終わった後にいろんな人の考察や意見が知りたくなった。
ちなみにこの感想文は完全ネタバレとなっているのでご注意ください。
この映画は説明的なセリフやナレーションがなくて、出来事や俳優の所作だけで淡々と見せていくので好き嫌いがわかれる映画かも。あと、登場人物の内面を掘り下げて深く考えるのが好きな人は好きなのではないかと思う。
■主役:フィル(ベネディクト・カンバーバッチ)
ベネ様の圧倒的存在感!!前半、フィルの陰湿なネチネチした嫌がらせとイジメ、マジ見ているだけでムカついた。いるよね〜〜〜〜〜こういう男性。いや女性でもだけど、こういう底意地の悪い人間というものの醜さ。しかし、前半この最高級に「こいつ、腹立つ〜〜〜!」感を出しておいて、あの後半のセンチメンタルさはまじ反則。最終的に「なんか可哀想な人だったな・・・」と思わせてしまうベネ様の演技力よ・・
このフィルって人はある意味、真面目で純粋だ。同性愛って言っても肉欲というよりは精神的依存というか。幼い頃に憧れた精神的な支えの「ブロンコ・ヘンリー」を一途に思っているところなどは・・ピュア・ボーイ・・・!めちゃピュア!同性愛って言っても多分経験すら、もしかしたらなかった、そういう自分すら認めらず、本当に誰にも打ち明けずに、ただただ自分の内の「ブロンコ・ヘンリー」と自慰していただけなのではないかと思ってしまう。
後半ピーターとの関係が変わってくると、むしろピーターに手綱握られてるじゃねーか。泣いちゃってるじゃねーか。こういう強がっている人間ほど情にほだされてしまうと弱いのよね。。。よよよ。でも完全にそういう弱さをわかりやすい映像では見せないのがこの映画のミソ。ジェーン・カンピオンは天才。
フィルはピーターよりも何倍も何倍もピュアで真面目で純粋だったんだな〜〜〜〜他人を認めることができない人間=自分を認めることができない人間なのだ。この映画の中で圧倒的に弱くて脆いのは、他でもないフィルである。そういう視点で最初からこの映画を見るとまた違った景色が見えてくるのが面白い。
あと最初にピーターのペーパー・フラワーを撫でる指がすごいエロやらしかった・・・・・すごいあの手つきが印象に残っている・・・すごいやらしかったよね・・あれも何かの隠語かもしれぬ・・・
そして「ブロークバックマウンテン」を見ている勢としては兄弟だろうがなんだろが、同じベッドに寝たり顔近づけて話してるだけでも「あ、これは・・!」と腐女子の勘がすぐに働いてしまう。ブロマンス以外のところでもそういうたくさんある匂わせを楽しめるかどうかが、この映画を楽しむ鍵なのだろう。
■ローズ(キルスティン・ダンスト)
スパイダーマンのMJとは思えないおばちゃん感を出していたところがすごいと思った。一瞬すごい老けたな・・と思ったけど、そういう役作りだよね。ちなみに彼女自身もアルコール依存症だったことがあり、しかも夫役のジェシー・プレモンスとも実生活で夫婦。これ、配役はもともとローズ役をエリザベス・モス、ジョージ役をポール・ダノが演じる予定だったらしくて。彼ら2人が降板したので、最終的にキルスティンとジェシー・プレモンスになったとか。良かったなあ。
いろんな考察の中に「彼女が牛の皮を原住民にあげなければピーターの計画は成り立たなかったから、彼女も実は共犯なのでは?」というものがあり、背筋が寒くなった。牛の皮あげるところ、ちょっと唐突で不自然のように見えたがどうだろうか。。
■ピーター(コディ・スミット=マクフィー)
この作品最大のダーーーーーークホース!!!!!怖い!!最後まで見て、このピーターを中心に見直したら全く別の映画というか、怖い映画に見える。この映画はフィルとローズの話と見せかけて、圧倒的にフィルとピーターの物語なんよね。
後半でそこらへんの物語の軸がボコッとずれて、さらにそこからフィルとピーターの力関係が反転していく様がこの映画の最大の見せ場。弱々しい佇まいに時折に垣間見せる強さと狂気。でもその狂気をうっすらとしか最後まで見せない。見えるようでギリギリ見せない。なので見終わった後でジワジワとくる。スルメのように後からジワジワ・・噛み切れそうで噛みきれない感。
てゆーか、たぶん実の父親も殺してるよね、君。「ロープ」が共通してるし。。。
■弟:ジョージ(ジェシー・プレモンス)
この作品で一番パッとしない役柄だが誰かの感想で「ジョージの鈍さがすごい」「結局一番楽に得をしたのはジョージなのでは?」というのがあって、ハッとした。
というか普通に考えて、そもそもばりばりミソジニーで威圧的なあのお兄さん(フィル)と妻と同居しようとよく思ったね????無断で結婚しておいて???ローズとのあの山地でのダンスと涙は一瞬感動すら覚えたけど、よく考えたら一番の原因作ったの君じゃねえ????
追い詰められている妻に気づかないジョージ。ピアノ弾けないっつってるのにいきなり知事の前で弾かせようとするジョージ。お兄さんが他殺されてもなんだかぼんやりとしているジョージ。
ジョーーーーーーーージ!!
いや、絶対ぜんぶ気づいとるやろ、君!!気づいているが気づいてないフリをして全て右から左で受け流すジョージ・・・実は本作の隠れたダークホースなのではないかと私は(勝手に)思っている。
■考察
これは見た人の解釈によると思うけど以下4点私の疑問点です。
・ピーターは実の父親を殺したと思う?
・ローズはピーターの共犯だったのか?
・ピーターは結局同性愛者だったのか?
・最後のピーターの表情の意味は?(私はこの次にターゲットにされるのはジョージやと思ったんだけど、どうですかね・・・・
まあ、これに対する答えはないけどこういうのを皆んなで語るのが楽しい。それが映画の面白さの一つだと思う。
■音楽と自然、監督について
映画館で見たらよかったな〜〜というところは、音楽と自然の描写。良かったなあ・・・音楽は「レディオヘッド」のジョニー・グリーンウッド。
ちなみにジェーン・カンピオン監督の作風は少し私、苦手(←え)なのだがニコール・キッドマン主演の「ある貴婦人の肖像」はとても好きです。ああいうクラシカルな女性作家のイメージがあったので、カウボーイの男臭い世界の作品、どうかな、と思っていたけど予想外にサスペンスで面白かった〜
アカデミー賞楽しみにしています、姉御!!