「あなた、コロナにかかってますよ」12話
さて、熱も夕方には無事さがり、美味しい食事をいただくこともでき、病院での一日目の夜がやってきた。さぞや快適に眠りにつけるだろうと思っていたのに、どうやらそうはいかないようだ。
まず、熱も下がったのにすぐ汗だくになる。持ってきたTシャツに限りがあるにもかかわらずあっという間にびしょびしょで内心焦る私。だってここは家じゃない。汗をかいても気軽に洗濯できないもの。コインランドリーがあるらしいが当然ながら有料だ(-_-;)。それに、配られたご案内を注意深く読んでみると”両替には対応しておりません”と書いてある。百円玉……あったかなぁ(-_-;)(-_-;)。なんて考えてたら汗だくの原因に気がついた。
そうか!パーカーを着たままだった。
熱をさげるために厚着をし、そのうえ布団をどっぷりと掛けていたのだった。だからかーと、いそいそとパーカーを脱ぐ私。あーすっきり。と思っていたのだが。
次なる敵は「枕」だった。
そもそも私、枕の必要性をあまり感じないタイプ。というより頭を上げることにより首が詰まることが何よりニガテ。ホテルに泊まるといっぱい枕が並んでて見た目は優雅だけど、そのままじゃ絶対寝られないから実は全部床に落としてる(すみません)。家でも長い間ノー枕だったんだけど、横向きになるときに肩が苦しいから今は、頭部が下がり首の部分が上がってるような枕を使ってる。
そんな私なのに、なんとベッドをフラットにすると酸素濃度が下がってしまうらしく、ベッドの頭部を傾斜させ上げているのである(涙)。これだけで寝られないの確定。しかも枕が昔ながらのとっても硬いヤツで、私のアタマに合わせてへこんでくれようなんてこれっぽっちも思ってなさそうな頑固者。
試行錯誤のすえ、私は枕をあきらめることにした。頭上に枕を追いやり首の部分にだけタオルを棒状にたたんで敷くと、なんとかしっくり来させることに成功。
さてこれで安眠できるかと思っていたのだが、熱は下がったにもかかわらずどういうわけか、高熱でうかされていたころのような奇妙な夢ばかりみるのだ。
夢のなかで、誰かが私に「僕が(水でっぽうか何かで)いたずらをしてシャツをビショビショにしました」と唐突に告げてくる。さっきからリアルにTシャツを何度か着替えていた私は「えーちょっと!どうしてくれるのよ、これ洗濯しなきゃいけないじゃない!コインランドリー代出してよね!」などとセコいことを叫んでる(;'∀')。
そして「あなたなんて名前よ」と聞くとナゼか、なにかの名簿のようなビジョンが出てきて『田中』だけが中央に大きく映し出された。私は「田中ね!わかった。『看護師さーん、田中って人がいたずらして私のTシャツをビショビショにしまーす!!』」と、大声で病院のスタッフさんに彼の悪行を言いつける、そんな夢(笑)
次の日、私が本当に大声を出していなかったか心配だったが、おそらく誰からもそんな指摘をされなかったので大丈夫だったのだろう。。。(それかホントにうなされてると思われたのかも)
こんな夢とも現実とも区別しがたい妄想が繰り返されるなか、ふと私はとっても重要なことに気付いてしまった。
そうか、ここって病院か。しかもコロナ病棟……
しかも、カーテンで仕切られているとはいえ
広ーい大部屋に私ひとり……。
一瞬ハッと目が覚める。さすがにちょっと怖い。きっと十年若かったらもっとビクビクしていたことでしょう。もう絶対、目は開けられなかったと思う。トイレもガマンしちゃってたかも(笑)
まあ、しかし今の私は、みえない存在もいるとわかっているし、私に対してそんなに悪いことをする存在もないだろうと知っている。むしろ「なにか起こすなら起こしてみやがれ!」的な少し挑発的な気分でもあった。
というのもやはり、一週間近く続いた高熱のなかで、夢とも幻ともつかない世界をさまよった経験がとにかくモノを言ってた。やけっぱちというかどんなことでも起こりうるというか、もしかすると(もうどうなってもいいや)という心境だったのかもしれない。死にかけるってそういうことなのかも……と今の私は思っている。
その後も妄想劇場はつづく。隣に立派な紳士とおぼしきヒトが横たわっていてギョッとしたり、私の左耳のすぐ横で「ホラッ」だか「オラッ」だか叫ばれてビクッとしたり、女のヒトの「あっ」て感じの声が枕の下から聞こえてきたり……これ全部ホントにリアルに見聞きしたもので、これまで生きてきたなかでは一度も経験したことのない、さまざまなエンターテインメントが病室でくりひろげられていたのでした。(笑)