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「あなた、コロナにかかってますよ」1話
私は高校生の息子と中学生の娘をもつ、アラフィフのシングルマザー。ファストフード店で働いている。しかもアルバイト。時給は安いしボーナスなんてもちろん、ない。
離婚して、はじめの頃こそ主婦パートの皆さんと同じようにランチタイムにだけ入っていたが(現実がわかっていなかった。笑)次第にそれではやっていけないことに気づく。そこから徐々に勤務時間が増え、ここ最近は週5日、土日もふくめ9時ー5時でサラリーマンのように働いていた。
それでも毎月ギリギリで、常におカネの不安がつきまとっているような生活だった。
ファストフード店の仕事はキツイ。
立ち仕事だからというのもあるけどもう一つ、”早さ”を求められる。これがオバチャンにはホントに辛い。自分の子といってもおかしくない年齢の子からあれこれ指示され、叱られ……仕事が終わるともうヘトヘトで、家に帰るだけの余力も残らないくらいだ。
しかも最近は、これまた自分より一回り以上年下の店長から「マネージャーになってください」と命じられ、足りないスキルを必死に補おうと私は必死だった。文字通り身も心も職場に捧げ(笑)もう毎日毎日、晩ごはんをつくる気力もないほど疲れていた。
その日は、いつにも増して身体がだるくて、朝ベッドから起き上がるのがやっとだった。あまりにも体が重いので私は悩んだ末、普段は25分くらいかけて自転車出勤しているのを電車にすることにした。
そう。それでも「休む」という選択肢は、私の中になかったのだった。
なぜなら、寝て起きても疲れが残っているのはその頃の私には”当たり前”だったから。
そして、当日突然休まれて困る経験を、イヤというほどしていたから。
そして何より、一日分のお給料がもらえないから。
いやでももう一つ、一番大きな理由がそこには隠されていたのかもしれない。それは
”勇気がなかった”から。
休むと言って迷惑がられたらどうしよう…
使えないと思われたらイヤだな…
いつの間にか、いつものように、無意識に(嫌われたくない)思いがそこにはあったのではないかという気がしている。
職場に到着しいつも通りに仕事する。身体は重いもののなんとかこなせている。ただ、ひとつだけいつもと違ったのはフロアーを歩いていて、まるで朝礼のとき貧血で倒れる女子のように一瞬フラッとしたことだった。
オバチャン、立ちくらみはすることはあっても、普通に歩いていてフラッとすることはない。さすがに(ちょっとおかしいな)と思った。そんなこともあり、仕事は一応時間まで全うしたものの、夕食は買って帰ることにした。
最寄り駅のスーパーでお弁当を買う。スーパーで歩いているときも一度ふらつく。
なんとなく「早く帰らなきゃ」とイヤな予感がした。
家に着き、まだ部活から戻らない息子を待たず、娘と二人でお弁当を食べる。食欲は普通にあるようだ。
食事を終え、いつものように二人でソファにゴロゴロしながらテレビを観ているとき。
突然。ホントに突然。
ゾクッと寒気がした。
食事を終えてほんの5分くらいでの出来事である。
とっさに「これはヤバい」と思った私は、急いで体温計を手に取り自分のベッドに入った。寒気はおさまることなく、私は自分のベッドに小さく丸まってガタガタ震えながら、娘に毛布を持ってきてもらった。それでも足りず、最近洗濯を済ませしまい込んだパーカーを引っ張り出す。
体温計の数字は、38.1度を示していた。あっという間の出来事だった。
けれど私は、このとき自分がコロナに感染したかもしれないとは夢にも思っていなかった。もっというと、クリニックに行きPCR検査をうけましょうと言われるまでは、
(コロナなんてもしかしたらホントはないのかも……)
くらいに思っていたのである。
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