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「あなた、コロナにかかってますよ」4話

4日目。症状はまったく変わらない。毎日職場に「今日も行けません」と連絡するのに気を遣う。
忙しい時間帯じゃないかなぁ、
あんまりツッコまれたこと聞かれたくないなぁ……
本当にこういう電話をするのはキライ(好きな人はいないか)。

この日電話に出たのは、店に異動してきたばかりの女子社員だった。
「ごめんなさい、まだ熱がさがらなくて……」というと
「お医者さんには?」と聞かれた。
とっさに「一度行ったんだけどね」とウソをついたのだがなぜかふと
(あ、ホントに行ってみようかな)
とようやくはじめて思った。よくよく考えてみたら、4日も熱がさがらないなんて……あまりにも変わらない状況に小さな突破口をみつけてもらった気がして、医者ギライの私でさえ少し目の前が明るくなった。

そこからお医者さん探しがはじまった。何しろ、今の住まいになってから15年ほどになるが内科というものに行ったことがない。私はGoogleマップで、一番近くて一番イケてそうなクリニックにあたりをつけ電話をした。
「すみません、熱があるんですけど診てもらえますか?」
電話に出た受付の女性は非常に感じよく親切そうだった。自分の直感が当たっていたことに少し満足する。けれども彼女は続けて、とっても申し訳なさそうに
「ごめんなさいね、うち今熱のある患者さんを受け入れてないんですよ」
と言った。そして、発熱センターというところに電話をするよう促された。

え、今の世の中ってそんなことになってるの!?

受話器を置いた私は朦朧とした頭で、しかし驚愕していた。
これまでも、例えば子どもにインフルエンザの疑いがあったりすると、事前にかかりつけの小児科へ電話連絡をして、他の患者さんに会わないよう隔離状態で診察を受けるようなことはあった。でも、今のこの状況はなんかそれともちょっと違う気がした。
”発熱” というワードがこんなにパワーを増大させていたとは……
私はしばし思考停止状態になっていたが、その後、息子が整形外科でよくお世話になっている総合病院にも電話をし、やはり同様の対応をされたことで、ようやく腹をくくり次の工程、つまり、案内してもらった『発熱センター』というところに電話をする決意を固める(大ゲサなようだがこの時の私は大真面目である。何しろ少しでも自分の負担を減らしたい)。

発熱センターでは、近くの”発熱対応している”クリニックをいくつか紹介してもらうのだが、おそらくどこか一つの拠点であちこちの地域の案内をしているのであろう、案内してくれるお嬢さんが明らかに”土地勘ゼロ”で、ものすごく頼りなく心もとない。候補を探すのにとんでもない時間がかかり、スマホで電話をすれば寝っ転がったまま待てたのに、電話代をケチって家の電話を使ってしまったがために立ったまま待ちぼうけ。途中で電話を切るわけにもいかず(早く横にならせてくれ~)と祈るような気持ちで待ち続ける。そしてようやく、近場でありながらまったく馴染みのない3つのクリニックの名が彼女から告げられた。
(こんなクリニックあったんだ…)
どれだけあるんだろう、自分が生息しているほんの百メートルの範囲にも私の知らない世界が。ましてや5分ほど自転車を走らせれば、その間には私が気づいてないだけで誰かの拠点があちこちに存在し、私が知らないだけでそこにも多くのドラマが生まれてるんだ……頭がまわらないクセに、いや、まわらないせいなのかそんな考えがグルグル脳内をかけめぐり、どこに行こうか全く決められない。
だってやっぱり行くなら親切なところがいいし、ヤブだったら嫌だもの。そもそも医者ギライなんだからできれば行きたくないし、めちゃくちゃ慎重になるのも当然でしょう?
まあそうはいっても、いまは非常事態だ。私にとっても世間的にも。いつまでも選んではいられないーー。

私はその中で一番近そうなところにまず電話をしてみた。しかし、呼んではいるものの一向に出る気配がない。見間違いかと何度も見返すが、それでもクリニックのサイトには今日は診療日となっている。
(とんだのか!?)
妄想力豊かな私は、発熱患者を受け入れているそのクリニックが対応に追われいっぱいいっぱいになり、スタッフが逃げてしまって開けられない様子をつい、思い浮かべてしまった。いけないいけない、またもや余計な思考に時間をかけてしまった。
何分かそのまま待ったが応答がないので仕方なくあきらめる。近くてナイスだったのに……おかげで”候補を選ぶ”という作業を再度することになってしまった。残る二か所は我が家からだいぶ離れている。今の状態で歩いて行くには、どちらも非常に心もとない距離である。
ひとつはアップダウンはないが距離的に遠いクリニック。
もう一つはそこよりも少し近いが、帰りの上り坂をクリアできるかが心配なクリニック。
もう、考えるのがイヤで億劫で、行くのをあきらめようかとさえ思ったのだがこの症状をガマンするのもまた苦痛だ。私は力をふりしぼり、遠いけど坂道のないクリニックを選択し電話をかけた。

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よっしー@自分軸セラピスト
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