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「紫波町図書館」という、図書館らしくない図書館のはなし

「図書館=本を借りられる場所」のみとするならば、岩手県にある紫波町図書館は、私が今まで出会ってきた図書館というもののイメージをくつがえしてくれる存在だ。

だからそんな敬意を込めて、紫波町図書館は「図書館らしくない」とあえて書かせていただこう。
そんな大好きな図書館のおはなし。

(*本記事内の写真は、許可を取って撮影しております)

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紫波町図書館に一歩足を踏み入れると、ふわっと暖かい感じがした。
なんでだろう。「こんにちはー」と、目が合ったスタッフさんが笑顔で迎え入れてくれたからだろうか? それも大きいし、それだけでもない。

音楽が流れる図書館

紫波町図書館の大きな特徴のひとつとして、「音楽が流れている」という点がある。だからこの場所は、厳かな図書館というよりも、落ち着いた喫茶店のような居心地の良さを感じさせてくれる。
音楽がかかっているおかげで、館内では大人も子供も、小声ながらおしゃべりをしている。

話し声があると結構落ち着けない時がある性分の私でも、「読書の妨げになる」と思ったことはない。
人の話し声もうるさくなりすぎない、ほどよいBGMのように感じられるのが不思議だ。そこにも空間作りや選曲の工夫があるのだろう。

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人と人との交流は大事な情報であるからこそ
館内でちょっとした立ち話ができる環境が用意されている。

実際通ううち、私も司書さんと立ち話をよくするようになった。
話をしているうちに近況や相談事が浮かび上がり
雑談から拾える町の人からの「生きた声」も
この図書館では貴重な情報と捉えられている。

ここでは、他の図書館によくある、「私語禁止」とか「ここで●●しないでください」という張り紙をほとんど見かけない。
何かイレギュラーな事態が起こればスタッフさんが駆け寄って話しかけ、コミュニケーションでの解決を図っているからだ。
問題がすぐに解決しなかったとしても、誰かが対応していることがわかれば周りの人も見守ってくださるとのこと。

お子さん連れのお母さんが、ある日、子供がぐずり始めたので慌てて図書館を出ようとしたら
司書さんが「どの本が好きなの?」と話しかけてくれたという話も聞いた。静かにしてくださいという圧力ではなくコミュニケーションをとってくれる。

こんな図書館ってあるんだ…!

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アーチ状にくねった棚の、絵本の森をくぐり抜けると赤ちゃん・子ども向けのコーナーに出る。
入り口近くから奥に行くにつれ、本の対象年齢が上がっていく構成になっていて、にぎやかな空間から静かな空間へのゆるやかなグラデーションがつくようになっている。

赤ちゃんが泣いちゃうのは自分で制御できないし
大人の方でも、どうしても声を抑えられない人もいる。

社会が色々な人を受容できるようになればいい。理想の社会はすぐに作れなくても、図書館の中からならできますよね」と、司書の手塚さんが案内してくださった。

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赤ちゃん対象のコーナーのすぐ真横には、子供用トイレと授乳室、そして子育てや家族・生活に関連する、大人向けの本が置かれた棚もある。そこにも、子供を抱えて大人向けのコーナーを目指さなくてもいいという配慮がある。

入れ替わっていく企画展

紫波町図書館の中心には、企画展が展開されている。
今開催されているのは、「知る!観る!エール!カナダとバレーボール」

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バレーボール専用コートがある合宿施設「オガールベース」のある紫波町は、オリンピック・パラリンピックに向けて盛岡市と共同でカナダのホストタウンとして登録された。

ホストタウンとしての応援がもっと楽しくなるように現役のバレーボール選手に試合の見所を聞いたり、紫波町在住・カナダ出身の方にカナダの魅力を聞いた内容も展示。

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その時々で内容は異なるが、企画展に一貫しているのは、今、この時世や季節の中で町の人が必要としているものかどうか
あるいは町にある・起こっている何か・誰かと連動している、など。

関連の本のみならず、実際に司書さんがインタビューをして編集した内容まで展示されている。
そこまでコミュニケーションを取りに行くのか……!
司書さんって、そこまでするんだ?と、単純に驚いた。
場所貸しのようにしてコーナーを展開していいですよ、ということとは全く異なる、収集した情報を選んで掲示しコーナーを作っている
その一連にかける手間暇に驚く…。
あと企画展に『ハイキュー!』が並んでるの、いいなぁ…とか。

図書館で展開されているコーナーやイベント企画ひとつひとつ、押し付けがましくはないのに、こめられた想いがすごい。

飲食OKコーナーがある、滞在が楽しい図書館

図書館ですることといえば、本を探すこと・借りること・読むこと・調べること……など。課題や必要に迫られて訪れるにせよ、暇つぶしにせよ、何をするにも居心地の良さってやはり重要だ。

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私は1階の窓際にある閲覧カウンター席がお気に入り。
窓際にちょこんと飾られているのは、産直などで仕入れた生花。ちなみにこの席は飲み物OK

2階にはゆったりした「読書テラス」があり、そこではなんと飲食もOK
ちなみに図書館の隣には産直の「紫波マルシェ」があるので、私はよくここでお昼休みにお弁当を食べつつ読書したりしている。

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ここから図書館を見下ろせる眺めも好き。

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「好き」も応援してくれる姿勢

図書館と併設する『情報交流館』には、バンド練習ができる立派な音楽スタジオがある。そして図書館には教則本やバンドスコアなども充実していて驚いた。

たとえば「ピアノを弾きたいな」と思ったら、ここで楽譜を借りて音楽室を借りればすぐに実現できる。
「やりたいなぁ…」と漠然と思っていることを、この地域にあるものを活用して実現できるような情報が、この図書館には詰まっているのだ。
この佇まいに、「がんばれ」、あるいは「好きなようにどうぞ」という温かい励ましのような姿勢を感じる。

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私が長く暮らしてきた東京には、本屋・雑貨屋・映画館……など、街を歩けば物理的に情報を得られる場所が多くある。

地方移住を考えた時、ネックだったのはそこだった。

東京を離れたからといって新しい情報やトレンドから縁遠くなりたくないし、文化的な情報は取り入れたい。
司書さんの情報感度の高さは、ここにある本や雑誌の選書に表れていて、
この場所があれば大丈夫かもしれないと感じさせてくれた紫波町図書館の存在は、私にとってとても大きかった。

「知りたいこと」に伴走してくれる

紫波町図書館の大きな強みの一つが、「レファレンス・サービス」にある。欲しい資料、知りたい情報などを司書さんに相談できるサービスだ。

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レファレンスサービスに対応する司書さんから聞いた言葉が、強く印象に残る。

「本当に、さまざまなことを聞かれます。
その全部が面白くて。謎解きをしているような気持ちです。
その方の知りたいことから、その方の人生にほんの少し伴走させていただくような気持ちになれる。
いろんな謎が図書館に寄せられて、それを一緒に考えられる。
そんな面白い仕事、他にあります?」

ネットで検索すればいろんな情報が出てくる世の中。
わからないこと・知りたいことがあったら、とりあえずググる。
そんなこともわからないの?って言われるのがなんだか怖い気がして、人に聞きづらい……。私は結構そういう性格で。
だからこそ図書館で司書さんに相談することって、今までなかった。

そもそも、司書さんと挨拶して、顔見知りになって、常連になるような図書館を今まで使っていなかったなと思う。
これは人口3万人の街、紫波町で暮らしているからこその距離感でもあるし、試行錯誤を重ねながら、町の人と丁寧なコミュニケーションによって作り上げられた紫波町図書館ならではの空気感なのだ。

こんな図書館が欲しい、から生まれた場所

2012年、すなわち9年前に紫波町図書館が開館するまで、紫波町には、公民館内に図書室があったものの図書館がなかった。

図書館を熱望する声はずっと高かったものの
「じゃあ、なぜ図書館が欲しいのだろう?」「どんな図書館がいいか?」を検討する「図書館を考える会」が町民を中心に結成され、その後何年もあたためられた声を反映してできたのが、紫波町図書館だ。

既存の図書館のリニューアルではなく、図書館がなかったからこそ、期待は膨らんだのかもしれない。
町民の要望で生まれ、形になったからこそ、紫波町図書館は、私の知っている図書館と色々な面で異なる。

ある意味で、図書館らしさを追求した結果
図書館の形式を超えた理想空間ができた
、ということなのかもしれない。

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こんな場所が欲しい、こんな場所を作りたい、
そんな思いが詰まった図書館だから、
こんなにも人のにおいがして、居心地がいいんだ。
あ、物理的なにおいじゃなく。とにかく人を感じる場所なのです。

農業支援や夜のとしょかん、移動図書館など……
紫波町図書館の魅力については正直まだまだ紹介しきれていない。

そんな紫波町図書館で、

instagram ・ Facebookページ がスタート。

えっ、誰が運用しているかって....?

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ちょこん、と座って本を読んでいる....。はい、わたくしです。笑

図書館利用者としての声を、文章やイラストなどをまじえながら、ぽつぽつ書いていきます。

図書館のSNSを「利用者」が運営するというのもなかなか世間では珍しいようですが、それも他の図書館と違う紫波町図書館らしくて、よいのではないでしょうか。

紫波町にお越しの際はぜひ、図書館に寄ってみてください。

紫波町図書館
〒028-3318 岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前2丁目3-3
オガールプラザ中央棟1F 情報交流館内
開館 [平 日]10:00~19:00
時間 [土日祝]10:00~18:00
休館日:月曜日(HPで開館カレンダーをご確認ください)
http://lib.town.shiwa.iwate.jp/

紫波町図書館の魅力、その裏側も含めて少しずつ発信していきます。

初のエッセイ本を出版しました。
『32歳。いきなり介護がやってきた。
 ー時をかける認知症の父と、がんの母と』

noteでの連載が書籍化するまでのお話はこちら。


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