コピ・ルアックの呪文(2024/10/26)

コーヒーを淹れる時に必ず脳裏に浮かぶのが、映画『かもめ食堂』のワンシーン。「コピ・ルアック」と言いながら粉の真ん中に指で小さな穴を開け、そこへ少しずつお湯を注ぐと美味しいコーヒーが出来上がるという。

小学生だったか中学生だったか。初めて『かもめ食堂』を観た日から虜になって何度も見返しているが、コピ・ルアックがジャコウネコのフンからとれる、高級豆の名前だと知ったのは大人になってからだった。

呪文や魔法の力を心の底から信じられたのはいつまでだっただろう。社会人になってからは目に見えるものに追われすぎて、見えない世界のことをないがしろにしすぎていたと最近になって思う。見える世界の方が大事で、そこに順応できる人であれば、見えない世界のことは放っておいた方が生きやすいのだろう。でも私は10年足らずでそこに自分の居場所は作れないとはっきり分かってしまった。魔法や幽霊や妖怪や、そんなものたちが登場する物語を大人になっても読み続けて、生活に見えない世界のエッセンスをひと匙ふた匙は、垂らして生きていきたい。見えない世界だって良いもんですよと声高に言い続けていきたい。

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