施設入所における家族支援で心がけていること
私が特養の相談員時代に心がけていたことを過去の事例をもとに書きたいと思います。
テーマは「施設入所における家族支援」です。
施設で「家に帰りたい」と言われたらどうする?
ある入所施設で相談員として働いていた時のこと。
時々「家に帰る!」と強く訴えるAさん(女性)という方がおられました。
どこの施設でもよくある「帰宅願望」のケースです。
職員らは対応に困りながら、あの手この手でAさんに落ち着いてもらえるように働きかけていました。
他の利用者さんの対応もあるので手がまわらず、相談員の私が対応することもたびたび。
「息子に電話して!」と言われたら「息子さん仕事なんで・・・。」と言って何とか納得いただけるように話したり。
また、話を違う方向へもっていくなどしてAさんに落ち着いてもらっていました。
私は認知症の対応は得意なほうでしたから、本領発揮と言わんばかりに対応した記憶があります。
とはいえ、かなりの時間をとられてしまいます。
しなければいけない仕事も後回しになるわけで・・・。
「帰宅願望」のある人でなく「家に帰りたい」人と捉える
時々、冷静になって考えました。
そして、毎回思うことがありました。
「そりゃ帰りたいわな…。」
「息子に会いたいよな…。」
私たち専門職は、仕事中の家族に迷惑をかけないようにという思いと、介護のプロ意識から何とか自分たちで介護を完結させようとしてしまいます。
そうしていると、本人と家族の関わりは減り、両者の距離をどんどん広げてしまいます。
「帰宅願望」という「認知症」の症状という枠に当てはめて、「帰りたい」という本人の「思い」を無視した支援になってしまうのです。
そう思いながら、私は、Aさんが「家に帰りたい」と言われたときに、その思いを尊重して時々息子さんに電話するようにしました。
仕事中で忙しそうにされているときもありましたが、電話でAさんの対応をしてもらったのです。
そうすると、早くにAさんに落ち着いてもらえました。
さすが、家族の力です!
やはり、私たちはAさんの家族にはなれない!
家族の役割をうまく使った支援をしなければ!
私は、そう思いました。
家族の力をどうやって介護に活かすか?
家族にすれば、もしかしたら「こっちも忙しいのにプロなんだからそちらで対応してくれよ…。」と思われていたかもしれません。
そんな家族の思いを想像しながら、気持ちよく協力してもらえるように息子さんと話をしました。
息子さんとの電話の後のAさんの落ち着いた姿を伝え、家族にしかできない介護であることを説明したり、そのおかげでAさんの症状が少しで緩和してればそれを伝えたり。
もちろん、息子さんが忙しそうにされているときは無理強いはせず、息子さんの出来る範囲で対応いただきました。
その後も息子さんは仕事で忙しくされていて、なかなか面会にも来れない状態で、「帰りたい」と言われているときの電話対応ぐらいしかお母さんとの関わりはありませんでした。
息子さんにとっては、この電話対応は煩わしいことでしかなかったかもしれません。
でも、息子さんにこの電話でのお母さんとのやりとりの尊さを分かってもらえるときがきっと来る!
私は、そう思っていました。
そして、年月が過ぎ、Aさんの「帰りたい」もなくなり、やがて状態が悪くなり、施設で最期を迎えられたのです。
私は、息子さんに伝えました。
「電話の対応をいただき本当に助けられました。」
ここまでが、私の家族支援でした。
最期を迎えた後まで考えた家族支援
息子さんに分かってもらえるときが来るのは、家族支援を始めたときからAさんが天国へ旅立たれた後でもかまわないと思っていました。
失ってから初めて気づく。
私は、介護においてはそれでもいいと割り切っています。
失って初めて気づくものが、できるだけ良い思い出となるような、そんな支援をしたいと思っています。
Aさんの支援では、それができました。
こうした支援がなければ、きっとAさんと息子さんの関係は希薄なまま終わっていたことでしょう。
施設に入所してから、家族がどんなふうに介護に関われるか。
家族の力をどのように引き出せるか。
施設介護においては、家族との関係が希薄になっているケースも多いだけに意識したい支援です。
これは相談員の仕事の醍醐味の一つだと、私は思っています。