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サイケデリック治療と受容 - 認知行動モデルによる新たな理解
近年、サイケデリック療法が様々な精神疾患の治療において有望な結果を示しています。しかし、その治療効果がなぜ、どのように生じるのかについては、これまで十分な理解がありませんでした。本研究は、特に「体験の回避から受容への変化」という治療効果に焦点を当て、認知行動療法(CBT)の視点から詳細な理論モデルを提示しています。
理論的基盤:信念の緩和
研究チームは、Carhart-HarrisとFristonが提唱した「信念緩和理論」を出発点としています。この理論によると、サイケデリックは通常は固く保持されている高次の信念体系を一時的に柔軟にします。これにより、普段は抑制されている情報の流れが解放され、より柔軟な心の状態が生まれます。
受容を促進する3つのメカニズム
第一に、受容のオペラント条件づけが挙げられます。サイケデリック状態では、体験を回避しようとすると不快感が増大し、逆に受容的な態度をとると不快感が軽減される傾向があります。この即時的なフィードバックにより、受容的な態度が強化されていきます。
第二に、プライベートな体験の強化と顕在化が起こります。サイケデリックの作用により、通常は抑制されている感情や記憶が表面化します。これは特に、アイマスクの着用や横臥位、音楽の使用といった設定要因によって促進されます。このような状態で、回避せずに体験と向き合うことで、深い治療的な洞察が得られる可能性があります。
第三に、回避に関連する信念の緩和と修正が生じます。サイケデリックによって柔軟になった信念システムは、新しい受容的な体験を通じて修正される機会を得ます。これにより、「不安は危険である」といった否定的な信念が、より適応的な信念に更新される可能性があります。
臨床実践への示唆
この理論モデルは、サイケデリック療法とCBTの間に重要な共通点があることを示しています。両者とも、回避から受容への移行を促進し、体験を通じた学習を重視し、信念システムの修正を目指します。このため、両者を統合することで、より効果的な治療が可能になると考えられます。
具体的には、準備セッションでの心理教育、セッション中の適切な支援、統合セッションでの認知再構成といった要素を、系統的に組み合わせることが推奨されます。また、個々の患者の回避傾向や受容能力に応じて、治療アプローチを調整することの重要性も指摘されています。
論文では、この理論モデルがMDMAを用いた療法にも適用できる可能性について議論しています。ただし、MDMAの場合は、恐怖反応を直接的に減弱させることで受容を促進する点で、作用機序が異なる可能性が指摘されています。
研究課題と将来展望
今後の研究課題として、サイケデリック体験中の受容関連プロセスを測定する方法の開発、治療効果の予測因子の特定、最適な治療プロトコルの確立などが挙げられています。また、パーソナリティ障害など、より複雑な症例への適用可能性についても、さらなる検討が必要とされています。
Wolff, M., Evens, R., Mertens, L. J., Koslowski, M., Betzler, F., Gründer, G., & Jungaberle, H. (2020). Learning to Let Go: A Cognitive-Behavioral Model of How Psychedelic Therapy Promotes Acceptance. Frontiers in Psychiatry, 11, 5. doi: 10.3389/fpsyt.2020.00005