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シロシビンと睡眠 - 抗うつ作用における睡眠改善の役割に関する予備的研究

サマリー

シロシビン使用後には睡眠障害とうつ症状の両方が改善しましたが、睡眠の改善は抗うつ効果と比べて小さいものでした。しかし、睡眠状態の改善は後のうつ症状の改善を予測する一方、うつ症状の改善は睡眠の変化を予測しないという重要な時系列的関係が見られ、これは睡眠改善が治療効果の重要なメカニズムである可能性を示唆しています。また、ベースラインでの睡眠障害(特に入眠困難)が重症なほどうつ症状の寛解率が低下することが分かり、これは睡眠状態の評価と管理が治療効果を最適化する上で重要である可能性を示しています。


シロシビンは、うつ病治療における有望な新薬として急速に注目を集めています。臨床試験では大きな抗うつ効果が示されていますが、参加者の約30%は十分な反応を示さないことが報告されています。この治療反応の個人差を説明する要因として、睡眠の役割に注目が集まっています。本研究は、シロシビン使用後の睡眠変化とその抗うつ効果との関連を探ることを目的としました。

研究チームは、シロシビンの使用を予定していた886名から得られたデータを分析しました。参加者は主に白人(90.7%)、男性(55.6%)、大学教育を受けた(84.2%)、就業者(78.1%)でした。うつ症状と睡眠の評価には、Quick Inventory for Depressive Symptoms (QIDS)を使用し、ベースライン、2週間後、4週間後に測定を行いました。

参加者のうち、全員が何らかの睡眠障害を報告し、特に注目すべきことに、睡眠障害が主要な抑うつ症状(26%)として最も多く報告されました。具体的な睡眠問題としては、入眠困難(43%)が最も多く、次いで早朝覚醒(30%)、睡眠維持困難(18%)、過眠(16%)と続きました。

主要な研究結果

睡眠の改善については、2週間後および4週間後に有意な改善が見られました。効果量は全体としては小さいものの(Cohen's d: 2週間後=-0.13、4週間後=-0.18)、ベースラインで中程度から重度の睡眠障害があった参加者では、より大きな改善(d=-0.39)が観察されました。

うつ症状との関係については、より複雑なパターンが明らかになりました。構造方程式モデリングの結果、睡眠の改善が後のうつ症状の改善を予測する一方、うつ症状の改善は睡眠の変化を予測しないことが示されました。これは、睡眠改善が抗うつ効果の重要なメカニズムである可能性を示唆しています。

特に重要な発見として、ベースラインでの睡眠障害の重症度が治療反応の予測因子となることが明らかになりました。ネットワーク分析では、特に入眠困難が4週間後の寛解の可能性低下と最も強く関連していました。

メカニズムに関する考察

研究チームは、これらの結果について3つの可能性のある解釈を提示しています。

  1. 睡眠の改善が直接的な治療メカニズムとして機能している可能性があります。これは、睡眠改善が後のうつ症状改善を予測するという時系列的な関係性から支持されます。

  2. 睡眠障害がシロシビンの治療効果を直接的に阻害している可能性があります。慢性的な睡眠障害は、神経可塑性や脳内の老廃物クリアランスなど、シロシビンの治療効果に重要と考えられる生理学的プロセスを妨げる可能性があります。

  3. 睡眠障害が特定の表現型を示すマーカーとなっている可能性があります。つまり、睡眠障害は治療反応の低い患者群を特徴づける指標である可能性があります。

本研究には、対照群がないこと、自然な環境での研究のため投与量や設定にばらつきがあること、診断基準に基づく選定を行っていないことなど、いくつかの限界があります。今後は、診断された気分障害患者での検証や、より詳細な睡眠評価指標の使用が必要とされます。

Reid, M. J., Kettner, H., Blanken, T. F., Weiss, B., & Carhartt-Harris, R. (2024). Preliminary Evidence of Sleep Improvements Following Psilocybin Administration, and their Involvement in Antidepressant Therapeutic Action. Current Psychiatry Reports, 26:659-669.

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