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うつ病治療に希望をもたらすシロシビン
本論文は、大うつ病性障害(MDD)に対するシロシビン支援療法の治療メカニズムを探究した研究です。近年、神経精神疾患に対するシロシビンの治療効果が注目を集めていますが、その効果がなぜ持続するのかは明確になっていませんでした。
研究の背景として、シロシビンはPsilocybe属のキノコに含まれる古典的向精神薬の一つで、セロトニン5HT-2A受容体を介して知覚や気分の変化をもたらすことが知られています。過去10年間の初期臨床試験では、シロシビン支援療法が、うつ病、不安、物質使用障害など、様々な精神疾患に対して即効性があり、その効果が持続することが示唆されています。
本研究の特徴は、心理的柔軟性という概念に着目した点です。心理的柔軟性とは、体験への開放性、行動への気づき、価値に基づいた行動という多面的な要素から構成される概念です。研究チームは、アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー(ACT)の枠組みを用いて、シロシビン投与と心理療法を組み合わせた治療プログラムを開発しました。
研究方法として、中程度から重度のMDD患者19名を対象に、プラセボ対照、被験者内、固定順序デザインの試験を実施しました。最初にプラセボを投与し、4週間後にシロシビン(0.3mg/kg)を投与する方式を採用し、投薬セッションは8回のセッションからなる精神療法プログラムに組み込まれました。評価項目として、うつ病の重症度、心理的柔軟性、マインドフルネス、価値観に基づいた生活について、16週間にわたり測定を行いました。
結果として、シロシビン投与後に心理的柔軟性、マインドフルネスの一部の側面(「判断なしの受容」と「描写」)、価値観に基づいた生活において有意な改善が見られ、その効果は16週目まで持続しました。特に重要な発見として、心理的柔軟性の改善はプラセボと比較して有意に大きく、うつ病症状の軽減と強い相関を示しました。
本研究の限界として、治療介入(プラセボ投与、シロシビン投与、ACTベースの心理療法)の個別の効果を完全に区別することが困難である点が挙げられます。また、プラセボ期からの持ち越し効果の可能性も考慮する必要があります。
今後の研究課題として、集中的な縦断的デザインの採用や、シロシビンの用量反応研究などが提案されています。これにより、心理的柔軟性とうつ病症状の時間的関係や、治療効果の勾配をより詳細に解明することが期待されます。
本研究は、シロシビン支援療法がMDDの治療に有効である可能性を示すとともに、心理的柔軟性の向上が重要な治療メカニズムの一つである可能性を示唆しています。これらの知見は、今後のうつ病治療の新たなアプローチの開発に重要な示唆を与えるものと考えられます。
Sloshower, J., Zeifman, R. J., Guss, J., Krause, R., Safi-Aghdam, H., Pathania, S., Pittman, B., & D'Souza, D. C. (2024). Psychological flexibility as a mechanism of change in psilocybin-assisted therapy for major depression: results from an exploratory placebo-controlled trial. Scientific Reports, 14(8833), 1-12. https://doi.org/10.1038/s41598-024-58318-x