運転免許証の有効期限
『代書屋の儲かった日も同じ顔』
30年以上も前のことを引き合いに出すとは歳をとったものだ。
原付バイクの免許を取得すべく、試験場を訪れた19の春。
当時は住み込みで仕事をしながら大学へ通っていた。
その当時の仕事の都合で取得する必要が生じたのだ。
相鉄線は二俣川駅下車。
神奈川県は二俣川に試験場があり、試験場へ向かう道は『試験場通り』なるものがあり、ぞろぞろと県内在住の人たちが押し寄せる。
両脇にはいわゆる『代書屋』が建ち並び、そこそこ繁盛していた。
神社仏閣の門前町といった雰囲気が漂っていた。
当時の申請書類の書式は非常にややこしくて、書き直しを命じられることが少なくなかった。
金を払ってでも代書屋に作成してもらった方が早く手続きが終わるのが実情だった。
そこで書類を作ってもらって、免許証用の写真も撮ってもらって行くのが当たり前だった。
それが済んで、試験の手続きや合格後の講習や免許証の受領などなどで一日がかりだった。
更新は更新で、やはり書式はややこしくて、なんだかんだと一日がかりで、その日のために休みが費やされる。
それから年々と代書屋の数は減り、今では数えるくらいになり、門前町の雰囲気はなくなり、寂れた雰囲気が漂っていた。
当時の建物は老朽化で取り壊されて、今では白を基調とした綺麗な物に。
長年の手続きの円滑化のノウハウが活かされた構造になっていた。
更新の手続きは所轄の警察署でも出来るものの、即日発行ではない。
その不便さを考えたら、初回、一般、優良、違反の全てを受け入れてくれる試験場が手っ取り早い。
緊急事態宣言の期間外だとはいうものの、蔓延防止等重点措置の期間中ではあったので、入場制限を避けるべく朝一番で早く乗り込んで行こうという作戦を実施しようというのは自分だけではなかった。
試験場は開場1時間前だというのに長蛇の列をなしていた。
この御時世ということもあってか、早めに開場して手続きの機械が円滑に人を捌く。
申請書類も簡略化され、申請する側と受け付ける側とのやり取りにも時間がかからずに流れ作業で進む。
更新手続きの中で一番緊張するのは『適性検査』
いわゆる視力検査。
だが、免許の種類によっては、これとはもう一つ別の検査が存在する。
『深視力検査』
三本の棒のうち、真ん中の棒が前後に動く。
同じ位置に来たなと思ったところでボタンを押す。
その誤差が2㎝以内ならば合格ということらしい。
立体感や奥行き感、空間認識に異常がないか調べる一環。
これを3回やるのだが、いわゆる普通の視力検査とは違って、普段は滅多にやらないし、やるのは眼科に行って頼むか、免許更新の時ぐらいしかない。
それだけに緊張感が最大になる山場。
これが終われば気も楽になる。
後は講習や免許証受領の流れに身を任せていればいい。
免許証受領で『おぉ...』と驚く。
その有効期限の表記に。
西暦と、元号の表記に。
括弧付き表記の並列表記になっていたが。
陛下には申し訳ないけど、極端な話、今は令和でも陛下の身に何か起こって明日には別の元号に変わっちゃうって可能性はゼロじゃない。
文書に日付を書き込むこともあるが、そのほとんどは西暦が圧倒的に多くて、元号の方が稀になって来た。
頑なにこだわっていたのに、そういう世の中の流れに逆らわずに来たのはありがたい。
更新の時期が来てもピンと来ないで混乱して失効なんてのは避けたい。
更新の知らせのハガキが来なければわからなかったかもしれない。
『変われば変わるものだなぁ』と『早く受け取れるとは』と隔世の感にニヤニヤする。
『今日も安全運転で』と会場を後にして車に乗り込む、
風の向くまま気の向くまま。
愛車を転がした。