あの人は…
正午を過ぎた辺りになると、決まってその女性はいつも同じ席に座っていた
注文はブラックコーヒーのみ
いつも1時間くらい滞在している
そして彼女は窓から見える向かいの家をじっと眺めている
彼女が入店して30分が経った頃
「コーヒーのおかわりをお願いします」という柔らかい声が聞こえた
いつもは1杯で終わっていたので珍しいなと思った
「すぐにお注ぎ致します」
そう言って、僕はコーヒーを作り始めた
ふと、視線を彼女の方に向けるとやはり窓の外の家に視線を向けていた
その横顔はとても綺麗でしかし何処となく儚さを感じた
年齢は30歳くらいだろうか、いつもはまじまじと見ないから気づかなかったけど
「コーヒーが出来ましたよ」
「ありがとうございます」
僕は空になったコーヒーカップを下げ、淹れたてのコーヒーを彼女の前に置いた
「何かいいものでも見つけましたか?」と窓の外を見ながらずっと気になっていた事を聞いてみた
「いえ…ただ、これが最後になるので」と彼女は呟いた
僕は「なるほど」とだけ返し、元の場所に戻った
次の日の朝、20代後半のご夫婦がお店に入ってきた
比較的、年齢層が高い人しか来ないので珍しいなと思った
ご夫婦はいつも来ている彼女と同じ席に座った
「ご注文はどうされますか?」
「カフェラテを2つお願いします」
「かしこまりました」
待っている間、ご夫婦はお店の中を眺めていた
二人の様子から初々しさを感じた
「カフェラテになります」
「ありがとうございます」
僕は二つのカップを置き、元の場所に戻る
ご夫婦は1時間くらいおしゃべりをして帰っていった
お会計の際、ご夫婦と少し会話をしたところ、新婚夫婦であることがわかった
その日の午後、女性は姿をみせなかった。
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