TEA SEEKER
沸騰した湯をポットに注ぐ。茶葉が踊り始めて美しい紅色が湧きあがる。
小型バケツサイズのマグに注ぐと瑞々しい香りが漂った。
熱い茶が胃まで落ちると頭が回りだす。
宇宙食マフィンを皿に乗せるのを、床に転がった女が睨む。
「密航なんぞ動画のネタにもなりゃしねーぞ」
まだ十代に見える女は無言だった。
『貴方の行為は犯罪です! 当局に通報します!』
カン高い声で船が叫ぶ。
「有名になりたいんならアテが外れたな。この艦は快速船じゃねえ」
「この艦は探索船? ホントに探索船なの?」
「快速船は帆が多い。この艦は二つだけ。見りゃわかんだろ」
『それが私、探索船タブ・ガーナード! 宇宙の果てまで理想の茶葉を探索するプロフェッショナルです!』
「うん、今日もテンションが高いな」
「あたしはシーカーに乗りたかった」
「あのなぁ、わかってんのか? レースに優勝すれば一攫千金の快速船とはワケが違う」
「未開惑星を駆けずり回ってお茶が無かったら野垂れ死に。そういう家業だぞ」
宇宙に出た人々は、故郷の植物を開拓した惑星で育てられないか思案した。
その中でもカメリア・シネンシス、茶の木が一番重要だ。
貴重な茶葉は人命より戦艦よりも高額になる。
巨獣がはびこる惑星のジャングルに生えるアッサム。
六千メートル級の高山の青茶。
惑星固有種の昆虫に樹液を吸われることで香気を増す東方美人。
快速船は茶葉を運ぶ。光速のの百倍で。最高の栄誉と報酬のために。
「あたしは知ってる。茶樹王の五百代目」
喉がヒュっとなった。
「あんたにならそこを教えられる。あたしの安全を保障して!」
喋ろうとしたら衝撃が襲った。
『左舷に砲撃! 背後に大型船確認!』
「タブ! 枷を解除!」
立ち上がった少女が、汚れた顔で俺を見つめる。
「あたしは太妃」
濃くなってしまった紅茶に、薄め用の湯を足して予備のカップに注いで差し出した。
「端坐だ」
少女は両手でカップを受け取った。
【続く】