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漫画の世界の神々さま⓵

コロナ禍で世の中がざわつき始めて一年近くが過ぎようとしています。
先日の節分では厄を払おうと各地の社で神事が静かに執り行われた事でしょう。
そんな中、ふと昔読んだ漫画を幾つか思い出しました。困った時に人が頼りかちになる神についての漫画です。

『神とはいったいなんなのか。』そんな事に頭を傾けた20代。それは、同級生がシスター(カトリックの女尼)の道に進む事を決めた事がきっかけでした。

ちなみに私は、神道の家系に生まれ母は信仰に寄り添い生きて来ました。苦しい暮らしの中で信仰は母の支えでもあったように見受けられます。朝夕に手を合わす姿は当たり前の光景で、それは88歳になった今も変わりません。

私と言えば、月次祭に出向く事も億劫で20代は学校で学ぶカトリックの教えも混乱を招き、なかなか素直な気持ちに慣れないでいました。
宗教の本は家の本棚に多く並んでいましたが殆ど手に取る事はありませんでした。読んだところで善いと思われる行いがただ書かれているだけで感動も共感も無かったからです。
そんな私に神を語り掛けてくれたのが何冊かの漫画でした。


初めて漫画の中の神で心を動かされたのは神坂智子さんのシルクロードシリーズです。

神坂智子さんのシルクロードシリーズは、NHKの石坂浩二ナレーションドキュメンタリー・シルクロードが放映された翌年ぐらいに始まったと記憶しています。
少女漫画雑誌『花とゆめ』に9年間に渡りぽつぽつと掲載されていました。

天山山脈に住むテングリ(神)の話しです。
前世・現世・過去が、いろいろな時代背景で描かれていて、面白い事に神話や史実に加えて根底にはSFがあった作品でした。
少女漫画にしてSFと歴史や神を融合させた神坂智子さんのイマジネーションには驚きです。

ここに描かれているテングリ(神)は唯一神ではありません。

天山山脈アジアの神々ですが、なんと足元まで伸びた金髪と青い目で白い肌のイケメン10人兄弟なのです。
彼らは銀鈴と長い杖を持ち不老不死の神様だと思われていました。
しかし実は、高度な文明を持ったが故に人類が滅亡してしまった前世で生まれた元人間だったのです。生まれと言っても人類が生殖機能を失ってしまった前世の中で人口子宮によって生み出されたと言う設定です。
また、テングリ達は超能力を持ってはいましたがキリスト教のGODのような絶対的な存在ではないのです。人間臭く、恋もし、喧嘩もする。八百万の神やギリシャ神話の神々と、どこか似ていると親近感を持ちました。おまけに一人は話の途中で死んでしまうのです。神が死ぬとは、これいかに⁈

ここでテングリ達を簡単に紹介させて頂きます。
と、言っても個性豊かな10人のテングリなので長めの紹介文となります。


長男 オリジン。

名の意味は、起源。
テングリ達の長。
旅の途中で銀鈴だけを残し失踪してしまう。
先程書いた死んでしまったテングリです。
しかし彼は子孫を残した。
他のテングリ達が現代でその子孫を見つけテングリの仲間にする。


次男 テイサ。

名の意味は、楽神。
オリジン失踪後、テングリ達を束ねる。
誇り高きテングリだか、お茶目なところも待ち合わせている。
オリジンの銀鈴を持ちオリジンの末裔を見つけ出す。


三男、マロムセイ。

名の意味は、師。
少し冷た気なテングリ。
頭にターバンを巻き判断力に長けているが口数が少ない。


四男 ナイアード。

名の意味は、泉。
青いモスクを一晩で作り上げた。
意にそわないままにティムール第七王妃となった少女の願いを形としたテングリ。


五男 アッシュ。

名の意味は、大地。
戦火の中、愛する人達を失った娘にオッドアイ(目の色が左右で違う)の孤児の母親になるように導き生きる目的を持す。

六男 カムシン。

名の意味は、熱風。
巻毛の髪を持つ。
愛する娘をその娘が年老い亡くなるまで見守り続ける。(私はカムシンがお気に入り(^。^))


七男 ジェナー。

名の意味は、翼。
どのテングリよりも空高く飛べる名前の通りのテングリ。
天山山脈を飛ぶ姿がとても美しい。


八男 スルジュ。

名の意味は、太陽。
額に目を持つゾマの娘に恋をする。人を食べるその娘を天山山脈に隠し新しく生きる道を与える。


九男 サーハス。

名の意味は、勇気。
どんなに遠くのものでも見える目を持つ。
オッドアイの赤ちゃんに自分の血を飲まし命を繋いでやる。
黒曜石の鏡を作る趣味がある。


十男 アーサー。

名の意味は、希望。
絨毯織りの娘の為に超能力でペルシャ絨毯を織り上げる。その時、自分の金髪の髪の毛を織り込んでしまい、幾世代後に物語が生まれる。

東アジア・中央アジア・ヨーロッパと話は各地に広がり、描かれているのは『生きる』と言うこと。
仏教・ゾロアスター教・チベット仏教・イスラム教など違った宗教が時折り垣間見えるのも物語を引き立てていました。

時に人前に姿を現すテングリ。
人と共に笑い泣き、また怒りをあらわにし超えてはいけない一線を超えてしまう掟破りの神々でもあります。

豊かな土地とは言えない中での暮らし。
争いの中で理不尽さを突きつけられる人々。
強大な国と弱小の国。
富める者と貧しき者。
立ちはだかる天災や疫病。
それらの中で悩み無き人などおらず、それを見護り悩むテングリ。

子どもの頃から両親に『手を合わす時に願い事を決してしてはいけませんよ。』と、言われ育った私は、やっと腑に落ちた自分を見つけました。
神様は、ただ見護る存在なのだと共感できる内容でした。

たまたまカトリックの高校・大学に進み新約聖書・旧約聖書を学び両親が話す神と違った教えを知り『神とは』と考えていた20代。
そんな中、通過ポイントを示してくれたのが神坂智子さんのシルクロードシリーズでした。

ミーハーな私はこの流れの中、シルクロードを一目見たい衝動に度々かられ、25歳のとき仕事を辞め中国へと旅立ちました。
今ほど解放的でない中華人民共和国。
国民服に自転車がわんさか。
海外旅行者には現地案内員が張り付いて写真撮影も勝手には出来ない状況ではありましたが西安の大門の上でシルクロードの出発点に立てたことは青春の大切な思い出の一つです。
しかし、当時の旅行代金は馬鹿高く帰国後すぐに職探しを始めた私でした。

やがて、神坂智子さんの作品『 T.E.オレンス』と出会い今度は西アジアへと好奇心は注がれて行きます。

今は確かに大変な時代でしょう。でも、実はいつの世も同じ繰り返しの時の流れの中にあり、その度に神の奇跡など無く、名もなき人々の気持ちや行いが時代を切り開き進化・進歩が生まれたはずではないでしょうか。

神の教えの違いで争い合う人。
神の名の元に暴利を貪る人。
それでも見護るしか神に為す術はなく気付くべきは人だと語りかけるような神坂智子作のシルクロードシリーズでした。



素乾 品








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