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ドイツでフリーランスの撮影助手としてビザを取った話


今、この記事を書いているのは2020年の11月、初めてドイツに入国してから2年が過ぎています。
僕は今年以降ビザを延長しない事とし、日本に帰国することを決めました。ここでは僕がワーキングホリデービザからフリーランスビザを取得した経緯と、その結果起こった事、そして帰国を決断した経緯などを書いていきたいと思います。
僕が渡独した時は(現在も)日本人の撮影助手という方はドイツにおらず苦労したので、僕の経験が後に続く方々の助けになる事を期待して記事に纏める事にしました。

※文章が長いのと、必ずしも他の方が書いている留学情報のようにスマートで有意な内容じゃありません。その点ご注意くださいませ。

ビザの延長を決断したわけ

僕が最初にドイツに渡って来たのは2018年10月の事でした。
当初、僕は忙しい東京から離れ、ワーキングホリデービザで2019年末までの1年間欧州中を旅行し、リフレッシュしてまた日本に戻る程度の考えでドイツにやってきました。
しかし、予想していない出来事が起こります。

それは、現地で恋人ができた事でした。

つまり、僕は彼女とドイツに残るという単純な理由のためにビザの延長を決断したのです。

ビザの延長のために用意した書類

外国人のビザ発給の手続きは各居住都市の外人局(Ausländerbehörde)という場所で行います。
当時住んでいたライプツィヒという街は比較的小さな都市で外人局は1か所しかありませんでしたが、ベルリンのような大規模な街だと地区毎に外人局が設置されているようです。

まずは必要書類提出・面談のために予約を取ります。
予約は各都市で設定されている予約ポータルサイトで予約を取るか、ウェブサイトに記載されているメールアドレス・電話番号に問い合わせる必要があります。
「Ausländerbehörde + 都市名 + Termin あるいは Anmeldung」で検索すると必要な情報が出てくる事が多かったです。
ライプツィヒでは予約ポータルのような物は見つからず、直接HPに記載されているメールアドレスに問い合わせをしました。

※ドイツの行政手続きの予約は(内容にもよりますが)かなり待たされる事が多いです!住居登録やビザ申請といった、人数が多い手続きの場合1ヶ月〜2ヶ月先以上の予約になる事は当たり前で、直近の予約ができるのは偶然キャンセルがあった場合のみです。僕は10月末の期限に向けて8月初旬に予約を取り作業を開始しましたがそれでも発行は少しオーバーしてしまいました。現地でビザの更新をする場合はなるべく早めの行動をお勧めします。

次に、以下のような必要書類を揃えます。
※これはライプツィヒの外人局において自営業者(selbständige)ビザで求められる書類であり、各都市・ビザの種類によって差があるようです。必ず居住都市の最新情報を確認してください。

・申し込み書類:全て記入し署名済みのもの(サイトからダウンロード可能)
・有効期限内の旅券
・入国時に使用したビザ(日本人はビザなしで90日滞在できるので恐らく不要)
・履歴書及び職務経歴書、それを証明する書類 ※1
・事業計画 ※2
・資産の証明
・これまで労働をしてきた事の証明(請求書や発注書など)※3
・ビザの期間をカバーする保険 ※4
・現在の住居の証明(住民票・賃貸契約書など)

これらを用意し、予約日に外人局に提出しに行きます。現在はコロナの影響で事前のメールや郵送でも対応しているようですが、最終的には面談が必要です。(今なら面談なしでビザが取れるという噂もあったのですが、僕は面接が必要だと担当者に告げられました。)

大変だった事、やっておけば良かった事

ビザの申請時には色々とトラブルがあり、一筋縄ではいきませんでした。
特に大変 or 面倒だった項目を順に解説していきたいと思います。

※1履歴書及び職務経歴書、それを証明する書類
履歴書自体は対して大変ではなく、インターネットで「Lebenslauf」と検索し適当なテンプレートで作成する等すれば良いのですが、問題は証明書です。英文で(!)大学の卒業証書及び学位証が必要だと言われてしまい、慌てて10何年ぶりに学生課に連絡し英文の学位証を発行してもらいつつ、親に頼んで卒業証書を掘り出してもらい、どちらもpdfファイルにスキャンして送ってもらいました。
しかも卒業証書は日本語だったので、横に独語の翻訳を付ける必要があり、かなり面倒くさかったです。
渡独前に学位証や卒業証書、インターン先や前の職場の契約書などを用意しておいた方が良いと思います。


※2事業計画
これも、事業計画の作成自体はそこまで面倒なものではありませんでした。
これまでの売り上げ等をリストアップして、グラフ化し今後の売り上げ予測も付けて簡単な資料を提出します。
しかし、この売り上げ予測の額がトラブルの元でした。
まだ1年目でそこまでの仕事も無く、語学学校や旅行に行ったりして売り上げが無かったり少なかったりした月も正直に計算に入れてしまい現在の売上高と今後の伸び率を計算してしまったのです(それでもドイツの最低賃金以上は確保していました)
これが審査に引っかかり、「これではドイツで生活ができない」と言われてしまいます。
仕方なく売り上げの無い月を入れず計算をし直し再提出したところ、「これなら大丈夫」との事。「大丈夫なんかいっ」と突っ込みを入れながら結果を待っていたのですが、ここでまたアクシデント。


担当者がバカンスに入ってしまい、別の担当者に変わってしまいます。

しかも引き継ぎは全くされておらず、新しい担当者(偏屈なおっさん。メールだけで会った事ないけど。)は訂正された資料を見て「この収入では生活ができず、ビザは出せない」と一刀両断。
色々と抗議してみましたが取り合ってもらえず、結局弁護士に依頼する羽目になってしまいました、、、。
お願いしたドイツ人弁護士の先生的にも首を捻るような外人局の対応だったようなのですが、ドイツは本当にいきなり担当者が変わる事があります。しかも僕の経験上、全く同僚間で引き継ぎがなされず、対応もガラッと変わる事が多いです。

これは在独の知人とも話した事なのですが、ドイツの役所と話す際「正直者は馬鹿を見る」といった面がある事は確かです。
申請が通りやすいように記述を少し盛って資料を作る、という事も時には必要かもしれません。


※3これまでに労働をしてきた事の証明(請求書や発注書・作品など)
これは単純にこれまでの仕事の請求書や発注書、芸術家の方ならポートレイトなどを提出するだけです。
ただ1点、重要なのは、仕事の何割かがドイツ国内のクライアントである事と今後もドイツ国内で仕事を受注できる見通しがある事を証明しなければなりません。
僕の場合、幸いなことにドイツ国内の日本向け制作会社とコネクションができていたのでそこから何件か仕事をもらえていました。
しかし、問題は未来の事で、映像の仕事、特にコマーシャル 等単発の仕事の場合1ヶ月以上先の案件が決まる事は非常に稀です。
しかしこれが無いと「この先ドイツで仕事が無いのか」と言われかれないので、

知人に頼んでフェイクの発注書を作成してもらいました(小声)

架空の案件を複数発注し、ビザ発給後キャンセルされたという事にしてとりあえずその場を凌ぐという、、、。
少なくとも問題にはなりませんでしたが、お勧めできる事ではありません。
だからと言って何だという感じなのですが、意外と皆やってるらしいです。(だから何だ)


※4ビザの期間をカバーする保険
僕はワーキングホリデービザに関しては「Care Concept」という短期〜長期型の旅行者保険を使っていました。
これは比較的有名な保険で、入会も簡単で、必要な治療はカバーされていたし価格も安く全く問題なかったです。
1度も病院にかかる事は無かったので、使用感は分かりませんが、、、。
結果で言うと、フリーランスビザもCare Conceptで取得しました。しかし、これにはカラクリがあります。
僕が経験したこの保険の問題点として、「ビザ対応プラン」と謳っているものを契約したとしても、

Care Conceptはあくまで旅行者保険という「印象」であり、労働のためのビザ更新・あるいはドイツの制作会社と仕事をする際に嫌がられる事が多い。

という事があります。
そしてもう一点大きく関わってくるのが、ドイツで映像の仕事をする場合、特に撮影助手は短期雇用の契約を結ばされる場合が多いという事です。
これはどういう事かというと、撮影でフリーランスに一定以上の賃金を支払ったり、一定期間以上の依頼をした場合、後の税務調査で「この人はあなたが雇用した社員であり、あなたの支払った賃金で生活をしている。そのため、あなたは年金・社会保険・税金等を(正社員同様に)支払う義務がある」とみなされ、仮に請求書ベースで天引きをせずに支払いをしていた場合、追徴金と罰金を支払う事になってしまう事が多いようなのです。
それを回避するため制作会社は撮影毎に短期雇用契約をフリーランス と結び、ギャランティーから各種経費を差し引いたものを支払う、という流れが大半になっています。
その際にやはり旅行者保険は手続き上不具合になる事が多いらしく、制作会社から送られてくる契約書でも最初から記入欄が法定健康保険(GKV)やプライベート保険(PKV)しか無い物しか用意されていませんでした。

ビザの話に戻ると、僕は「現在はCare Concept だがこれは法定健康保険に加入するまでの繋ぎで、加入できたら切り替えます」という証明書を保険会社から発行してもらい、申請自体は通りました。

しかし、保険はその後の審査で落ちてしまったのですが、、。

代表的な法定健康保険であるAOKは「収入が多すぎる」という理由ではねられ(公的な健康保険であるため、低所得者を対象としている。あなたの収入ならプライベートに入れという事を言われた)、もう1つのTKはフリーランスビザで取得する事がかなり困難。プライベート保険はめちゃ高、、、。ここで心が折れ結局今日までCare Conceptで凌いできましたが、撮影の契約を結ぼうとするたびに「え?これ旅行者用じゃん」と言われるので中々面倒くさかったです。
ドイツで労働ビザに更新をする場合には、働き始める前か学生ビザのうちに法定保険か、余裕があればプライベート保険に加入しておく事をお勧めします。

ちなみにこれは撮影助手に限って言えることかもしれませんが、申請をする際の肩書きは「カメラマン」にしておいた方が後々便利です。
「カメラアシスタント」にしておくと独立した職種ではなく「雇用される側」として認識される事が多く、KSK(フリーランス・芸術家向けの社会保障)制度に登録する際「あなたはカメラマンに雇われる立場なので芸術家では無い」と言われ断られたり制作会社的にも「カメラマン」というアーティスト的な肩書きの方が税金周りの作業が楽で喜ばれる場合があるからです。


ビザの他に必要なもの

晴れてビザを取得したわけですが、これ以外にもドイツで働いて報酬を得る際に必要なものがありますので紹介をしていきたいと思います。

①税識別番号(Steuer Identifikationsnummer)
これはドイツで住民登録をすると全員に割り振られるマイナンバーのようなもので、ギャラの請求や契約、その他諸々で何かと必要になります。
住民登録後郵送されてくるらしいのですが、僕のところには届きませんでした。何故なら、

大家さんが僕の名前をポストに書くのを忘れてたから。

その他行政書類も全て返送されてたっぽいです、、、。
というわけで税務署(Finanzamt)までわざわざ出向き、発行してもらう事に。
渡独したてで緊張しっぱなしでしたが、番号が呼ばれるまで待ち、パスポートと住民票を出してすぐに受け取る事ができました。
優しい担当者の人で良かった。


②社会保険番号(Rentenversicherungsnummer)
いわゆる、年金番号です。
前述した通り、ドイツで映像の仕事をする場合、短期雇用の契約を結ぶ場合が多く、そのため制作会社は短期であっても雇用者の年金を支払う義務があります。
そのため必要なのがこの番号で、これが無いとめんどくさい事になります。
就職している場合は会社が加入させてくれますが、フリーランスは自分で加入するか、プロダクション経由で加入の手続きを取る必要があります。
僕はというと、2ヶ月間ほどのドラマ撮影に参加した際にプロダクションが勝手に加入の手続きをしてくれていました。
これはただの幸運で取得のための何の参考にもなりませんが、、、。


③付加価値税登録番号(VAT. NrまたはUSt-IdNr.)

さて、これなのですが、(恐らく)ドイツ国内でドイツのクライアントのみと仕事をする分には必要がありません。
これはドイツ国外のクライアントと仕事をする場合に必要なものです。
他国のクライアントと仕事をした場合、請求の際のそれぞれの国の消費税(付加価値税)が異なるため、この番号を用いて処理をします。
これは取得が非常に面倒で、まずドイツで自営業登録をし、その後別途申請して番号を取得する必要があります。
この申請や税金周りの段取りは非常に複雑なので僕はフィナンシャルアドバイザーの方に依頼をして取得しました。
これに限らず税金関係の手続きは個人でやるには無理があるというのが僕の印象です。そこまでお金がかかるものでもないので、可能な限り専門家に依頼してしまう方が結果的に早く正確に手続きが進む事になると思います。

ドイツでの撮影助手生活

ここまで愚痴だらけのようになってしまいましたが、ドイツでの撮影助手の生活はとても快適なものでした。
最初、僕はカメラマンを呼ぶ時に「Sie」という敬称を使っていたのですが、彼は「Du(君)でいいよ。誰も現場で敬語なんて使わないよ」と言ってくれました。その言葉の通り、ほとんどの現場では上下の隔てなくお互いにファーストネームで呼び合うフレンドリーな雰囲気で、日本のようなピリついた感覚はあまり感じませんでした。

欧米の人々の気質もあるかもしれませんが、撮影監督システムという日本と違う現場の仕組みも関係しているのかなと思います。
※日本と海外の撮影システムの違いに関しては以下の記事で解説しています。

ドイツに限らずヨーロッパ諸国の現場では、DoP(撮影監督)、AC(アシスタント)を始め現場スタッフのそれぞれが対等な立場で、互いの仕事を尊重し合っている雰囲気がありました。

現場の労働環境も比較的日本よりも良好です。
「比較的」というのは、思った以上にドイツ人も時間外労働をするから。もちろん超過料金は出るのですが、「欧米の現場ではきっちり時間内で終わる」という印象があったのでちょっとした驚きでした。
とはいえ必ず温かい食事付きの1時間前後の休憩があったり、長期の撮影の場合週休2日が確実に確保される事などスタッフのケアは日本よりしっかりしていたのでストレスは少なかったです。

ドイツにいて撮影助手をやるもう一つの大きな利点といえば、「いろんな国で撮影の仕事をする事ができる」という点です。先週はオーストリア、今週はスペインで撮影、なんていう事もありましたし、スイスで山岳撮影をしてドイツのスタジオで室内撮影という募集案件もありました。ドイツの労働ビザを持っていればEU圏内どこでもビザなしで渡航できますし、LCC(格安航空)を使えば日帰りで他国に行く事も可能です。
1〜2時間飛行機に乗っただけで、言葉も文化も全く違う土地に行けて、現地の人と仕事ができる。これはヨーロッパで働く上でのとても大きな利点なのではないでしょうか。

上で紹介した記事にも少し書きましたが、賃金的にもドイツはかなり高いです。ただ、前述した通り制作会社は撮影毎に短期雇用の形を取る事が多く、その場合給料から必要経費が天引きされた状態で手取りが振り込まれます。
この割合が結構大きく、僕は大体30〜40%でしたが、人によっては60%ほど引かれる事もあったようです。
ただ、インボイスでやった場合だと同じ経費を自分で払わなければいけないので、これを高いと見るか会社が自分の代わりにやってくれてありがたいと見るかは個人次第だと思います。

ビザ期限切れ、そして帰国の決断

そうして1年間フリーの撮影助手として活動して来たのですが、今年の10月末の期限をもって延長せず、日本に帰国することを決めたのはいくつかの理由があります。

・1つ目は、彼女と別れた事です。恋人という存在がいたために滞在を延長する事を決めた僕にとって、この出来事はドイツにいる存在理由をほぼ全て無くす物でした。僕にとって「目的」もなくただ生き続けるという事は本当に苦しい物です。僕は日本に新しい目標を設定し、今後はそれを活動の糧にしていく事を決めました。

・2つ目は現在のビザの不自由さです。ドイツの映像業界で働く上で、僕のカメラアシスタントとしてのフリーランスビザはドイツの映像業界で働く上で大きな矛盾を含む物でした。前述した通り、ドイツの制作会社は多くの場合、短期雇用の契約を結びたがるのですが、フリーランスビザはあくまで「フリーランス」として働くためのものであり、クライアントと雇用関係を結ぶ事を認めていないのです。仮にこのビザを延長できたとしても、今後ずっとこの矛盾をはらんだままドイツで働き続ける事は、いつか大きなトラブルを生んでしまうと考えたのです。
どこかの会社の所属になる事が1番シンプルな解決法ですが、現状においては現実的ではないと判断しました。

・3つ目は資金的な面です。貯蓄も渡航当時よりかなり少なくなっている上、コロナの影響で僕の収入の大半を占めていた日本からの撮影案件がほぼ無くなってしまいました。幸いにもここ数ヶ月は現地の案件を取ることができていたのですが、それでもわずかな収入増にしかならず、このままではジリ貧状態になってしまうと考え、自分の次のステップのために日本に帰って体制を整える事にしたのです。


さいごに

ドイツに滞在するのもあと数日となりました。去る事を決めてからに限って新しい人脈ができたり、新たな発見があったりしてドイツの良さを再発見する機会が増えているのは不思議な物ですが、後ろ髪を引かれながら出国するくらいがちょうど良いのかなと考えています。

この国が嫌になって出るわけではありませんし、帰国後も何らかの形で関わり続けたいと思っています。こんな混乱の時代の中でこの先どのような物語が待っているのか予想もつきませんが、ドイツで出会った人や経験が今後の人生でどんな化学反応を引き起こしてくれるのか楽しみにしながら、これからも自分の目標に向かって全力で進み続けたいと思っています。

こちらに渡ってから改めて日本の良い部分にも気付けましたが、同時に日本にいた時には見えなかった母国の色々な問題点もヨーロッパで様々な国の人や文化と関わる中で気づく事ができました。
日本にいると、海外との直接的な接点が少ない島国の特性上なのかどうしても閉鎖的で偏った思想や知識に陥りがちです。
テレビやインターネットで見て知るのとは全く違う物が世界には広がっています。
日本人は情報が発達して国外に出ずしても世界中の出来事が知れる今だからこそ、短期間でも日本を出て直接その目で世界を見て感じるべきです。
こんな厳しい時代ですが、もし今後ドイツへの渡航を考えている方で、僕にアドバイスできる事があればわかる範囲でお手伝いさせていただきたいと思います。
遠慮なくご連絡ください。

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佐野翔一
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