運命なんて浮かれた言葉で
『今度転勤なるんだ。』
兄の赴任先はあの人が住む街だった。
あの人とは、部活が同じだったとか就職先の系列が同じだとか共通点が多かった。別れていなければ『運命』だなんて、浮かれた言葉でまとめていたのかもしれない。
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両親は新しい赴任先に旅行に行こうと意気込んでいて、私もついて行った。あの人が選んだ道を直接見たくて。
ずっと前に教えてもらった、星の名前がついたアーケード街をひたすら歩いた。一緒に行きたいねって言って、叶うことがなかったあのアーケード。あの人の住む世界を知りたくて、休んでいるのも勿体無くて、これでもかというほど歩き回った。
泣けるほど、いい街だった。
提灯で照らされた夜桜の下で宴会をする人々を見て、なんていい街だろうと思った。穏やかで暖かくて。あの頃、苦しみながら冷たい水の中を泳いでいた彼は、ここで過ごすことを決めたのだ。
よく似合うな、と思った。鷹揚なあの人に。
全てを見透かしたような眼で、柔らかく微笑むあの人に。
私もこの世界で一緒に生きたかったなと、気づけば涙を流していた。でもすぐに、よかったなと思った。あの人はやっと自由に穏やかに生きられるんだなと思った。
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あの人と過ごしたことは偶然だったのか、でも、私は運命だったと思う。
愛だと信じたかったあの時間は、長い時間をかけて運命になった、と思う。
もう会うことのないあの人を、もう来ることのない街で思い浮かべる
運命だなんて浮かれた言葉をふわふわさせながら。
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