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孤独な冬の匂いを

2年半、経てば癒えると思った。
一緒に居た時間を思い出で埋めれば過去になると思った。

でも、清々しく凍てつくような空気は私をあの頃に引き戻す。いつも孤独な冬の匂いを身に纏った彼を思い出さずにはいられない。

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山奥のペンションでただ黙々とステーキを頬張り微笑みあうあの時間、韓国ドラマの甘酸っぱい場面を見ながら上がった口角を手で押さえるあの時間、お昼に起きてお気に入りのパン屋にのらりくらりと向かうあの時間、深夜にラーメンを食べた後4DXを観にいくあの時間。

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幸福以外のなにものでもなかった。しかし幸福の最中、彼はずっと孤独な冬の匂いを纏っていた。いつか遠くへ行ってしまいそうだった。だからこそ幸福な時間が去ることにいつも恐怖し、怯え、しまいには1人でいることに耐えられなくなるほど、孤独への恐れが私を侵食していた。

幸福と、そして恐怖と過ごした2年半の月日は私の心を傷つけたようだった。どれほど思い出で塗り替えようとしても、傷が痛むのには変わりなく、なにより傷ができるほど愛しかった彼との幸福は特別に違いないから、上書きで過去にすることは容易くなんてなかった。
癒えるまでもう少し時間がほしい。
傷に向き合って、孤独を恐れなくていい人と出会うまで。

そして、

彼も、春の陽だまりのような人に出会えていればいいなと願う。冬の匂いを溶かすような太陽みたいな人に。

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