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西洋美術を鑑賞するためにたった一つの大切なこと

☆この記事は、ノンクリスチャンだけど西洋美術、特に聖書モチーフの絵画に興味がある方向けの記事です。

## はじめに ##

私が通っていた大学はキリスト教系でした。

ノンクリスチャンでも特に問題はなかったのですが、唯一困ったのが一般教養枠で気まぐれに取った『西洋美術概論』の授業です。

西洋美術概論ってあれでしょ?ルノワールにゴッホにピカソでしょ?難易度も入門編って書いてあるし、余裕余裕!
その思いは早々に打ち消されました。

何が困るって、キリスト教の教養がある前提で話されること。

スライド出されて「『トマスの不信』におけるカラバッジョの絵画表現はジョルジョ・ヴァザーリとは異なり・・・」とか言われても、「『トマスの不信』って何?4人いるけどトマスどれ?ってかトマスって誰?マジで何の話してるの???」と頭の中パニック状態。例えていうなら、「クリリンのことかー!!!」で周りが盛り上がっているのを見ながら、「クリリンって誰?」と思いながらも、とりあえず曖昧な笑みを浮かべている状況です。

Wikipediaより。トマスは真ん中。

それ以外にも「イサクの犠牲」「ダヴィデとゴリアテ」等、文脈上辛うじてキリスト教の聖書に出てくるエピソードであることはわかるものの全然ピンと来ないシーンを描いた絵画の話が続き、赤点ギリギリの成績表を手に、私は悟ったのでした。「西洋美術の鑑賞にキリスト教の教養は必須」と。

『トマスの不信』をはじめ、良く絵画で取り上げられるシーンの元ネタくらいは抑えておきたい。とは言え、「クリリンのことかー!!!」の元ネタを知るためにドラゴンボール全巻読むのはまあ可能ですが、聖書を全文読破するのは現実的ではない。大学時代はマジでどうすれば良いかわからなかったのですが、社会人になってからとても良い本を見つけました。

それが阿刀田 高さんの『旧約聖書を知っていますか』『新約聖書を知っていますか』の二冊です。

前置きが長くなりましたが、これさえ読めばあなたも西洋絵画に出てくる主なキリスト教エピソードの元ネタを理解した上で「クリリンっていうのは、ドラゴンボールの初期から出ている主人公悟空の親友なんだ。目の前で殺された彼の死を愚弄され、主人公は覚醒していくんだよ。アツくない!?」と語れる側に回れるはずです。

## 著者の 阿刀田高 さんについて ##

著者の阿刀田高さんは、ミステリー・ショートショート等を書かれている作家の方です。
著書の中でも書かれていますが、クリスチャンの方ではありません。
ですので、「宗教の本ってことは、何だかんだで布教してくるんじゃないの?説教くさいんじゃないの?」
という疑念はとりあえず横に置いていただいて大丈夫です。

## 『旧約聖書を知っていますか』(阿刀田 高) ##

まずは基本的な話になりますが、聖書の「旧約」「新約」の約は「約束」の約です。
「神との約束」がイエスキリストによって刷新されたという考えで、
イエスキリスト以前の、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教共通の聖典を「旧約聖書」、
イエスキリストとその弟子たちのエピソード集を「新約聖書」と言います。

この本では、旧約聖書を概観しながら、「ノアの方舟」のような誰もが何となく知っているエピソードや上に出てきた「イサクの犠牲」「ダヴィデとゴリアテ」の他にも、「ユディットとホロフェネス」「サムソンとデリラ」等、絵画のモチーフとして良く取り上げられるエピソードを解説してくれます。マジ助かる。

この本の面白いところは、作家という立場に立って、「なぜ聖書のような真面目な本に、面白いエピソードが紛れ込んでいるのか」を考察しているところ。例えば「サムソンとデリラ」は、十二人の士師、すなわちイスラエル内の政治指導者について書かれたエピソードの中にあります。士師であるサムスンが、神に与えられた怪力を用いて敵を倒すが、美女デリラにうっかり力の秘密を話してしまい、最終的には命を落とすという話なんです。このサムスン、あんまり頭良くなさそうだし女に弱いし、え?ホントにこんな重要ポジションについてる?と思ってしまうのですが、阿刀田氏曰く、「12人もいると、まとめた人がこっそり地元の英雄のエピソードを混ぜ込んじゃう。」とのこと。なんかわかる。

かなり軽いタッチです。


## 『新約聖書を知っていますか』(阿刀田 高) ##

「旧約」の方でも述べましたが、
「新約聖書」は、イエスキリストとその弟子たちのエピソード集です。

こちらは上記より真面目なトーンで、人間イエスの愛と苦悩の物語が主軸となっています。
ちょっと、手塚治虫のブッタに、トーンが似ていると思います。もっとあっさりですが。
上の「トマスの不信」はこちらに出てきます。あと有名どころだと「サロメ」とかね。

正直、独自の解釈が入っていて、特に熱心なクリスチャンの方は賛否両論だと思います。
でも、私は、「伝統的なユダヤ社会で、事情は良くわからないながらも未婚で妊娠した母マリアと、それを知りながら結婚した実父ではないヨゼフに慈しまれて育ったことで、イエスは愛について真摯に考え、何者も排除しない新しい宗教を作り上げた」という解釈はとても好きですし、そうであって欲しいと心から思います。

## おわりに ##

さて、この2冊を読み通せば、西洋美術史上の絵画に出てくる有名どころのエピソードは大体元ネタがわかるようになっていることでしょう。

そして、あなたは「『トマスの不信』って何?てかトマスって誰?」と言われても、自信を持ってこう答えられることでしょう。

「トマスっていうのは十二使徒の中でも序盤は目立たないキャラだったんだけど、死んだ師が復活したことを疑って傷口に指を入れて確認したシーンで有名になったんだ。で、トマスはその後、師を疑った己を恥じて絶望し、覚醒していくんだよ。アツくない!?

と。

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