プロローグ
過去を頭の中で再生する。
間もなく消失してしまう目前の美しい御方のために、彼は見出すべきモノがあった。それは彼の義務だった。
御方のために彼ができることはそれだけだ。御方のために身を投げ出すことも、代わりに消失することもできぬ彼は、己を呪う。
「私は……何のために生まれてきたのだろうか」
御方を失った彼は自問する。
あの方とともに、彼も消え去るべきだったと、己を責めた。
だが、できなかったことには理由がある。
怖かったのだ。
彼もまた、生きるモノだ。生きるモノとしての本能が、彼を怖がらせた。
彼は旅に出た。
「遠いところへ行こう。同胞にも、同胞が救ったモノにも、同胞が傷つけたモノにも会わぬ。そんなところへ行こう。私が消えゆくために」
故郷を捨て、敬愛する御方を見失い、義務を失った彼は、己が消えてしまうために、遠いところへ進んでいく。
彼の終わりまで続くはずだった旅の途中で、彼は光を見つけた。
その光は、かつて彼が御方のために探し求め、見出していた光そのものだった。
その光は、同胞にしか輝き出せぬと、同胞でしかないと信じていた彼には大きすぎる衝撃。
しかし、それは同時に希望でもあるのだった。
「光の戦士が揃う時、ルミエル様は覚醒する」
御方の名を口にしながら彼は思う。この世界は、何処も光を求めるのだと。
光をもたらさねばならぬ。そのためには、御方が必要である。その御方を護らねばならぬ。それが彼らの存在意義だった。
「見出さねば…」
彼だけは護るためが存在意義ではない。
彼は、その御方を護るため、見出さねばならぬ。
「『光の戦士』を」
彼はその地へ降り立つ。その地で再び、御方のために生きることを決めた。
「『光の戦士』を……見出さねば………!」
故郷ではない知らぬ土地。その土地で暮らす見覚えのない生きるモノから、あの御方をお護りするための光を見出さねばならない。
どこに、どこにいるのだ。
不安はなかった。彼は、あの御方のために生きることができるだけでいいのだ。不安など、感じるところは何一つないのだ。