中曽根康弘「未来のおとなへ語る わたしがリーダーシップについて語るなら」
私は、ライフワークとして、リーダーシップの考えを広め、リーダーの育成をしたいと考えています。
私がリーダーシップに目覚めるきっかけを作ってくれたのは、とある企業再生案件とメンターとの出会いでした(詳細は、連載シリーズ「リーダーと考える経営の現場」の「第14回 リーダーシップの旅 前半」と「第15回 リーダーシップの旅 後半」に記載しています。)。
それ以来、私は、リーダーシップを軸に、会社経営と向き合っています。
今では、株式会社スーツという経営コンサルティング会社を創業し、時価総額100億円以下の中小企業やベンチャー企業に対して、例えば外部からヒト・モノ・カネという経営資源を調達できるように、リーダーシップをコア・コンピタンスとした経営支援をしています。
前置きが長くなりましたが、本稿では、2019年11月に、101歳で亡くなられた中曾根康弘元首相が92歳の時に記載された「未来のおとなへ語る わたしがリーダーシップについて語るなら」が素晴らしい本だったので、「はじめに」、「第7章 何が人をリーダーにさせるのか」、「おわりに」の一節を転載してご紹介したいと思います。
メモ「わたしがリーダーシップについて語るなら」
<はじめに>
1.わたしは、人間の生き方を考えることなしに、リーダーシップについて語ることはできないと思います。
2.リーダーはこの世にたくさんいます。しかし、リーダーシップがあるかどうかは、別の問題です。リーダーでなくても、リーダーシップのある人もいれば、逆に、リーダーであってもリーダーシップのない人もいます。
3.多くの人が、リーダーシップを生まれつき備わったものと考えています。しかし、それは違います。リーダーシップは生まれてから精神に染みこんでいくもの、先人からも学び、自分でも学んで修めていくものです。
4.「修己治人」・・・国や社会、人類のために自分が与えられた使命をはたしていくためには、まず自分自身を修める、という考え方です。自分を修めた人でなければ、人のために尽くせない、つまり、リーダーシップをとれないということです。
5.リーダーシップなど、自分とは関係ないと思っている人も多くいるでしょう。それも違います。なぜなら、人間は、どんな人も、自分で自分を決定して生きていかなければならないからです。誰もが自分のリーダーです。
6.自分で自分を決定するということは、人の意見や慣習、環境、ましてや計算ずくで、自分がどうにかなるというものではなく、自分の内なる呼びかけに耳を澄ますということです。
7.・・・身体も成長し、精神も成長する青春時代に「自分はどう生きるべきか」と問うことは大切です。その模索や悩みによって心が耕され、滋養豊かなリーダーシップの土壌がつくられていくのです。
<第7章 何が人をリーダーにさせるのか>
8.政治家の仕事は、国民が存在しなければなりたたない仕事です。
9.「リーダー」というのは役割であって、仕事や技術ではないからです。彼らは、ただ、その分野で自分の仕事を極めよう、自分の技術を最高のものにしよう、と研鑽を積んできた人たちです。そして、自分の勉強や仕事でベストを求める人間は、自分の限界に挑戦することをおそれないものです。
10.目の前の問題は現実的に処理しなければならず、この責務から逃げることは許されません。むずかしいのは、問題を処理するときの選択肢がひとつではなく、しかも、その選択によって、結果が変わってくることです。・・・この選択の重さは、・・・みなその責務から逃れることはできません。
11.子どものときに自然と呼応しあった心が、おとなになって目先の利益しかものが見えない場所に閉ざされそうになると、いつもわたしを元の場所に呼び戻してくれました。
12.「くりかえし、じっと反省すればするほど常に新たにそして高まりくる感嘆と崇敬の念をもって心をみたすものが二つある。わがうえなる星の輝く空とわが内なる道徳律とである」
13.人間の心の奥深いところに、道徳律があることを、わたしは疑ったことはありません。これを共有しているからこそ、人間はお互いに話しあうことで、理解しあえるのだ、というのが信念です。
14.己を修めるためには、ある年代でするべきことは、その年代で身につけて、一歩一歩蓄積していくことが極めて大切だと思います。子どものころに経験しておくこと、青年期に考えておくべきこと、読んでおくべき文学、歴史、哲学。それらが自然に心のなかの土壌に染みこんで、初めて、自分はどう生きるべきかという問いに対しての答えが、呼びかけとなって、自分の心の奥から聞こえてくるのだと思います。その土壌のなかからしかリーダーシップは芽生えてこないとわたしは思います。
<おわりに>
15.わたしは若いときからさまざまな経験をつんで今日まできました。生きていると同時に生かされているという自覚と責任。与えられた智力、体力の限りを尽くし生きることの意味を見つけようとする本能。家庭や社会、国家のなかでの人との運命的出会いと縁の不思議。この縁という不可思議なものは宗教観や宇宙に繋がる感覚かもしれません。ある意味で感謝にもにた気持ちなのです。
16.こうした何もかもがわたしそのもので、わたしが精進を重ねることでこの世に生まれた自分という存在を生かしきることができました。
17.自らの良心の声に従って自分自身の道を進み、自分を生かしきること、それこそがわたしの道であると信じています。
株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。