「サイコーでーす!」を封印した誠也
423511…2
この数字の並びにひさびさに溜飲をおろしたカープファンも少なくないだろう。
そう、きのうの対ジャイアンツ戦での鈴木誠也の成績だ。
4打席2得点3安打5打点1三振1四球…2本塁打。
この程度の数字をいつでも叩き出すだけのポテンシャルを彼は持っている。しかし、それが結果としてなかなか出てこなかったことにファンも関係者も苛立っていた。
もちろん一番苛立ち、そのことに不甲斐なさを感じていたのは他ならぬ鈴木誠也本人だったわけで、その彼が試合後のヒロインでどんな発言をするのか、身を乗り出しながらそのときを待った。
「サイコーでーす!」
鈴木誠也は、お約束の雄叫びを封印した。
そして、まったくおどけることなく、どちらかといえば敗者の弁を語るかのように、ひとつひとつのコメントを絞りだすように口にしていた。
その間合いに、複雑な心境をのぞかせながら…。
その光景を見守りながら、鈴木誠也とカープファンとの間に、なんともいえないミゾのようなものができてしまったのではないか、そんな危惧の念が浮かんでいた。
敵地東京ドームということもあっただろうが、「サイコーでーす!」と素直に叫べない気持ちがどこかにわだかまっていたように見えたのだ。
一軍にデビューしてからの誠也は、足首を負傷しての退場期間以外は順風満帆といっていいほど順調に成長し、結果を出してきた。
いま思えば「神っていた」ときすら常態であったかのごとく、高いレベルでステップアップしてきていた。
「このまま行ったら、どこまでの選手になるのか見当もつかない」
何人もの解説者がそう口にしていたほどで、かれはまさに別次元の選手になろうとしていた。
これは大げさでもなく、もしかしたら今シーズンの大谷翔平のレベルにまで到達していた可能性だってあったのだ。
ところが前年の思わぬ停滞、そして今シーズンの低迷…。
たぶんファンからの長くつづく、そして大掛かりなバッシングを経験するのは初めてのことだろう。
もちろんそれがカープ愛ゆえに、誠也への期待からのものであることはわかってはいても、決して快いものではなかったはずだ。
「あの素晴らしいときをもう一度」
すでに失ってしまったことを認めるようで、こうはいいたくないのだが、たしかに3連覇していた頃のカープから何かが失われ、選手とファンとの間に微妙なズレができてしまっているのかもしれない。
コロナ禍の入場制限であらわになってしまったのだろうか。スタンドを埋めた真っ赤なユニフォームと一糸みだれぬ声援が仮に構築した幻影、その魔法が溶けてしまったのかもしれない。
きのうは佐々岡監督のバースデーで、試合前に選手たちから監督にドリンクを贈呈するセレモニーがあったという。
「そのお祭り気分のままゲームに臨んだことが勝因につながった」という観戦記をどこかで目にしたようにも思うが、そのお祭りを楽しそうには想像できないのだ。
その証左だろうか、先のヒロインで鈴木誠也は「監督のバースデー」に言及することはなかった。
野球のグラウンドでは、たったの一球がゲームを変えるし、選手の野球人生を左右することもある。
それと同じく、たった1試合の数字が選手のメッセージを雄弁に伝えることもあるだろう。
423511…2
この数字の並びが、鈴木誠也からカープファンへのそれでなければいいが、と願うばかりだ。