夜這いをおおらかに
等夜の野に 兎ねらはり をさをさも 寝なへ児故に 母にころはえ
巻14の3529 東歌
一般訳
とやの野に兎をねらうではないけれど、ろくろく共寝もしていないあの娘のために、おっかさんに見つかって叱られた。
解 釈
うさぎ狩りと夜ばいとをかけて、鄙のユーモアとでもいうんでしょうか。うさぎを狙うように夜ばいに行ったものの、お母さんにバレてしまって、こっぴどく怒られたという歌。あの時代のおおらかな男女の営みが、しみじみとうらやましいばかりです。
「等夜」がどこの地名かは不明ということですが、「等しい夜」ですから、ここでは特定の場所ではなく、「常の夜」とみてもいいんではないでしょうか。いつもの夜にいつもの野で兎を追う、あるいは夜ばいをする。うさぎ狩りも夜ばいも習慣だったのですから、それがおさまりがいい。
「兎」は原文で「乎佐藝」と当てられています。そしてつぎの句の「をさをさ」も「乎佐乎佐」と書かれていて、リズミカルなかけことばになっています。ぴょん、ひょん、と跳ねるように忍んでは身を隠す。あたりをうかがって、またぴょん、ぴょんと娘のいる寝屋に近づく。そんな男の滑稽な姿を想像するだけでも吹き出してしまいそうです。
歌の上の句は、うさぎ狩りの場面。そして下の句は夜ばいの場。その境にある「をさをさも」という境界が、じつはふたつの世界を結ぶ通路でもある。うさぎを追っていたはずのじぶんが、いつの間にやら夜ばいをしている。また夜ばいの夢から目覚めたら、うさぎを追っていた。夜の世界でふたつの行為が不可分に交錯していると読んでも面白い。
直感訳
いつもの夜にいつものように、うさぎを追っていたとおもっていたのに、ふと目を覚ましたら、あの娘の庭にひそんでいた。まだ一時も共寝もしていないのに母親に見つかって、こっぴどく叱られてしまったよ。
(禁無断転載)