10日目・「ああっ、キーが…」
10月26日。
宿で朝食を摂ってから、チャックアウトしてそのまま解散というのも芸がないので、Fと朝の散策に出た。
宿の女将に訊くと、ちょうど手頃にまわれる滝があるというので見物に行ってみた。
すると「出世の神」が祀られている祠があって、いまは完全隠居のFとふたり、いまさらながらの参拝。
ご利益は期待しないまま奥に進んで滝の前まで行くと、チンケな霊域にしては案外霊気は感じられて、長旅の疲れは癒されたのだった。
昨夜は9時前には床について爆睡できたし、疲れはマックス時に比べると二割感。そこに思わずパワーもらえたこともあって、意を決して、ここから一旦北進して信州は長野の小布施に寄り、そこから日本海に出て西下して帰宅することにした。
旅館をチェックアウトする際、クーポン券をもらっていて、その期限が今日まで。しかも長野に入ってしまっては使えないというんで、道中気が気ではなかったが、途中に寄った道の駅すばしりの売店でそれが使えるというので、故郷への土産を購入することにした。
どこかはしゃいだ気分でもあったのだろうか、買ってきたばかりの土産を助手席に置いて運転席に回ろうとしたら、オートロックがガタッと自動でかかってしまった。
いやーな予感があって、ポケットをまさぐったところ、やはりキーはなかった。土産と一緒に置いたままドア閉めてしまったのだった。
なぜロックがかかったのかはわからない。横にあった携帯の電波が飛んだのか、どちらにしても、かかってしまったという事実は覆らない。
茫然自失とはこのこと。
見知らぬ土地で、車にすべての持ち物を入れたまま、電話代の10円もないまま曇天の空の下に放り出されてしまったのだった。
とりあえず管理事務所で電話を借りて家に連絡して、そこから保険会社に事情を説明してもらうことにした。
さいわい、先ほどクーポンで土産を買った時のスタッフが責任者らしく、快く電話は借りられた。
なんとか家に連絡が取れて、レスキューを手配してもらっている間に、一縷の望みを求めてジムニーにもどってみると、助手席の窓が4、5センチ下りているのを発見。そしてカギはケース箱の上に乗っていて、針金があればなんとかか引っ掛けて取り出せそうだった。
やおら管理事務所に舞い戻って針金のようなものを所望したが、生憎とその在庫はなかった。
その代わりと言って持ってきてくれたのがマジックハンド。それはまっすぐな棒状のプラスチック製で、窓の隙間を通りそうもなかったが、ものは試しとやってみると、窓枠に沿って横にすれば、なんとか入れることはできた。
こうなれば、あとはわが手首もつぶれよとばかりの勢いと忍耐で、なんとかキーをダッシュボードまでクレーンアップし、それからまた体勢を整えて、窓の隙間まで引きつけて、なんとか手に落とすることができた。
そのときの喜びたるや、クーポン券を100枚積まれても足りないほどだった。
思わぬ時間を取られて、その日のうちに小布施の近くまで入ることは叶わぬと悟り、奈良で宿泊して気に入ったホテルチェーンが松本にあるのを調べてチェックイン。
ところがこのホテルに期待した温泉はなく、ただのしょぼいホテル。しかたなくユニットバスに持参のホーリーバジルをぶち込んでプチ薬湯にせんとしたが、そのバジルは遠く離れたパーキングの車の中。
もうええわ、とやけくそで入ったバスは設計ミスだろう、カランが壁面に近すぎて回すこともできずに温度調整も不可というしまつ。
朝に参拝した出世の神への賽銭が少なかったか、散々な移動日となってしまった。
本日の小銭買い
出世不動尊 賽銭 101円
有料道路 500円
ガソリン 2151円
土産 592円(クーポン2000円)
新聞・ゆずレモン 290円
草餅 250円
餃子の王将 -930円(札食い)
ビール -600円(札買い)
計 2201円