8日目・亡き友の墓参
10月24日。
ホテル2泊目の朝。
さすがに納豆の連チャンも躊躇われて、この日はパン食にした。
グルテンを意識して、家ではほとんどパンを食べなくなったが、旅の身空であーだこーだいってる暇はない。
選択肢は目の前にあるものしかないのだ。
車中食でもしない限りは外食となるわけで、どちらにしても選択肢は限られる。
健康食の店とか、菜食専門店とかをわざわざ探すほどのこだわりもなく、逆にこんな機会しかないとばかりに肉汁たっぷりのラーメンを食べたり、添加物は避けられないコンビニのホットドックに手を伸ばしたりと、意外に悪食を楽しんでもいるのだが。
さて、ホテルには午前11時のチェックアウトぎりぎりまでいて、荷物の整理をしたりバスタブに浸かったりと時間を稼ぐ。これから向かう品川の某寺までは30分ほどの所要時間。午後2時の集合まで、車でウロウロする徒労をしたくなかったので。
小銭抱えてジムニーに飛び乗って東上してきた車旅の発端はこの日の墓参で、前年に墓前で手を合わせたときから、つぎの命日には車で来ようと決めていたのだ。
そして、その前後に用事のいくつかを見繕っての往路。明日、追善旅行で湯河原に行ったあとの帰路をどうするかは、まだ決めてはいなかった。
ホテルを出てナビに誘導されて移動中、20分ほど走った頃だったか、にわかに空腹を覚える。すぐにスーパーの看板が目に入ったので、弁当でも仕入れようと地下駐車場に車を滑り込ませた。
駐車場は有料。となれば長居は無用で、さっさとメロンブロック、おこわ弁当とホタテフライをカゴにぶち込んで精算を済ませる。
レジで有料袋を断って精算の745円を払いつつ「駐車券は?」と、割引きをねだったが、「3千円以上お買い上げいただくと無料になります」と冷酷に告げられた。
「だったら、代金払った方がましですね」の捨て台詞を呑み込みながら精算機に走ってカード入れると、表示された金額はなんと330円。
たぶんスーパーの駐車場で請求された人生最高額の駐車料金だったろう。
「ふざけるな!」と、叫びたくなったが、なぜか330円の小銭が減らせることに喜びも感じていて、複雑な心境ではあった。
亡友の入る墓は品川の旧街道に当たるのか、カラー舗装が老婆の厚化粧のように感じられる古びた商店街を路地に少し入ったところにあって、狭い敷地に長い時間駐車するのも気が引けて、商店街の隅にジムニーを止めて、先ほど仕入れた弁当をバクつく。
おこわ弁当とホタテフライの取り合わせの妙に、われながら感心・満足してバクついていると携帯が鳴って、それは一緒に参拝するFからだった。
「どこか近くで花屋があったら、買っといてくれ」という一方的な依頼。
いつもなら高校時代からの習いで、「わりゃが買えや、いや、そっちじゃ」と冗談半分に一悶着あるところだが、ここは素直に請け負った。
これでまた小銭が使えるわい、とつい嬉しくなったのだ。
現金といえば、これほど現金なこともないだろう。笑
商店街を右に行き左にもどって探したが、花屋はなかった。それでも小さなスーパーがみつかって、菊の花束購入して770円。
ところが、車から出るとき小銭用意するのを失念していて財布の中にあった小銭では足りず、札で購入するハメになってしまったのだった。
2時過ぎにFとMとが連れ立って現れ、いよいよ墓参。
ジムニーを境内にバックで滑り込ませて、墓所のアルミ扉を開けようとしたが、頑として開かない。
寺の境内を扉で仕切っているのも珍しいが、それをロックして開かないようにしているというのは初めての経験だった。
なんでも近くのガキどもが侵入して悪戯をするのだと、線香の火を借りに行ったFが住職からぼやかれたらしい。
墓前で手を合わせても、まだYが他界にいってしまった実感はなく、寂しいとも悲しいとも自覚しかねて、そのうち3人で記念撮影したばかりで、そそくさと寺を後にした。
「また、来年な」
その日がまた確実に迎えられることを疑うこともない楽天からだろう、心残りもなかった。
それから3人、Mの家に行きAと合流しての追善法要という酒盛り。
さすがにこの口実は絶大で、Mの奥方いっさい小言をいわず歓待してくれたのだった。
この日の小銭買い
天然水(自販機) 260円
メロンブロック 298円
おこわ弁当・ホタテフライ 447円
駐車料金 330円
計 1335円