ちっちゃい店のオーナーシェフ青春雑記#6鬼の所業
業界の相場的にはどうだったのか、知る由もありませんが
僕の新卒1年目の手取りは11万円でした
寮住まいで、休みの日以外は賄いも有ったし、コックコートは会社負担でクリーニングもしてくれる
貯金出来るほどでは無かったものの、生きていくのに苦労した覚えはない
それでも初任給の殆どを、包丁に使うのは勇気が必要だったと思う
8万円の杉本包丁
中華料理店に勤める料理人で「杉本」の名前を知らない人は珍しい
切れ味、柄の持ちやすさ、全体の重さのバランス
人それぞれ好みはあれど、比較的手の大きい自分にとっては非常に相性の良い包丁でした
給料の大部分を注ぎ込む事に踏み切った理由の大部分は、
「せっかくプロになったんやから、良い物を持ちたい」
だったものの
じっくりと何年もかけて自分の手に馴染む包丁に育てようと息巻いていました
毎日のように研いでは磨き、少しづつ持ち手の木が擦り減り、自分の手に馴染み始めた頃でした
「ちょっと借りたら、手が滑っちゃったww」
出勤した僕の目に写ったのは、見るも無惨に刃が割れてしまった包丁でした