月曜の朝、5時45分
月曜日の朝、5時45分に掛けていたアラームで目を覚ました。寝起きはとてもいい方だと思う。前に同棲していた人が朝が弱い人だったので一年間毎日早起きしていたおかげかもしれない。隣で寝ている彼を起こさないように静かに身体を起こし、借りていた部屋着を脱いだ。寝る前、そろそろ生理が来るかもしれないと話したら三枚もパンツを穿かされたけど、好きな人の布団を汚してしまうよりはずっといい。
洗面所で顔を洗ってふと鏡を見るといつもと顔が少し違う。そういえば、昨日の夜久しぶりに泣いたんだった。冗談でひどい事ばかり言う彼に「ちゃんと大切にしないといつか後悔するよ」と言ったら「そうだね。いい女だったのになってきっと後悔すると思う。分かってる」と真面目な顔で言うので、だったら、だったら、と無性に悲しくなってしまった。そして、同時にそんな自分が情けなかった。好きな人がただ好きで、ただそれだけで、何も求めていないなんて格好つけた事をずっと言っていたけど、本当は捨てきれない希望や願いをいつまでも大事に取って置いているのだ。そもそも端から一切の期待をせずにひたすら無償の愛を注ぐだけなんて無理に決まっている。好きな人なんて、所詮赤の他人なのに。
さあ着替えようとハンガーに掛けていたワンピースを雑に引っ張ったら寝ている彼の顔の上に落としてしまい、とても鬱陶しそうにされた。わざとじゃないのだからそんなあからさまに嫌な顔しなくてもいいのに、と皺の寄った眉間を眺めながら思う。大事にしてよ、大事にされたいよ、ねえ、優しくしてよ、いつもは考えもしないようなことばかりが頭に浮かぶ。心の調子が悪いみたいだ。
6時、玄関のドアを開けたら大雨が降っていた。彼の家から駅までは徒歩で15分ほど掛かる。生理前で腹痛もあったのでさすがに考えてしまい、部屋の中に向かって「雨が降ってる」と声を掛けた。何も返事がない。もう一度「雨が降ってるんだけど」先ほどより声のボリュームを上げて話しかける。ガサッと音がして布団の中からほとんど目の開いていない顔がこちらを向いて、しばらくの沈黙のあと「玄関にある傘、使えば」と返ってきた。「でも他に傘ないでしょ」「別にいいよ」「いや、いい」私は彼に背を向けてドアノブを再び掴んだ。その時はただひたすら意地になっていて自分で自分がどうしたかったのか分からなかったけど、多分本当は駅まで一緒に傘を差して見送って欲しかった。そう言えばよかった。それだけなのに。
閉まり掛けた扉の奥から「使えって言ってんじゃん」と怒ったような呆れたような鋭い声が飛んできて、私は逃げるように階段を駆け足で降りた。
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