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【小説】アルカナの守り人(1) フウタ

 朝からテレビのニュースは同じ事を繰り返してる。

 最近流行っている奇病のニュースだ。犠牲者の多くは、なぜか幼い子供たち。

 その奇病にかかると、体温がどんどん下がり始めるらしい。免疫力が下がり、最後は冬の鉛色の空の色になって死んでいく。原因も発生場所も不明。とにかく謎の多い奇病だった。フウタは、そんなニュースを上の空で聞いていた。

 薄暗い探偵事務所の一室。置いてあるのは最低限のもの。本がほとんど入ってない本棚にテレビ、形だけの応接セット。そして、探偵っぽさを演出するためのデスクに、座り心地の最悪な事務椅子だ。俺は、頭の後ろで手を組みつつ、わざとギシギシと耳障りな音を立てながら、座ってる椅子を横に揺らす。そして、狭い窓から空を見上げた。
 今日も、良い天気だ。と言っても、青空も、流れる雲も、降り注ぐ太陽の光も、全部紛い物だ。本物の空なんて知らない。この世界で、本物の空を見上げたことのある奴なんていない。人類が本物の空を見上げ、太陽の光を浴び、満天の星空を見ることはもうない。そう、もう地上は、俺たち人類が住む場所ではなくなっていた。

 約 一八〇年前、天文学者の学会が、「太陽の軌道変更を確認した」と発表。それに続き、気象学者の学会が「三〇年後には地球の平均気温が四〇度上昇する」と追加発表したのだ。平均気温が四〇度も上昇したら、人類はどうなるのか。そもそも、そんなに気温が上昇したら、寒冷地帯の氷河は全て溶け出してしまう。そして、予想通り、海面は一気に上昇。多くの陸地は海の中に沈んでしまう。各国の有力者たちが、こぞって三〇〇〇メートル級の山の中に都市の建設を始めたのは、こういう理由からだった。約一六〇年前、人類は山中都市に続々と移住を開始した。そして、約一五〇年前には、地球上の人類と一部の動植物が完全に山中都市に移動したのだ。

そして現在。国という概念は最早ない。様々な国籍、民族、人種が混ざり合って快適に暮らしている。数ある山中都市の一つ、TKエリアにフウタは探偵事務所を構えていた。雑居ビルの一室、扉には、「Liber」と書かれた看板が架かっている。古い言葉で、自由という意味。フウタはとても気に入っていた



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