マーケティング理論で考える観光地経営と足を運んでもらうための5つのデザイン
様々な僻地でホテルを経営しているということもあり、色々な地方の自治体に伺わせていただく機会も多いです。
その時に気になっていたのが、観光客を誘引したいと考えているところは多々あれ、『観光地』としてその土地を捉え経営しようと努めているところはかなり少ないということ。
もっと言えば、観光地というひとつの『商品』をマーケティングしているという感覚で地域ブランディングや事業運営を行うことで、今まで見えてこなかった景色が見えてくるようになるのではないかと考えています。
というのも、観光地経営、もしくは観光地で事業を営む上で、基本的なマーケティングモデルを当てはめることで、取り組むべきことが明確になりやすいんです。
というわけで、本日は私たちが地方での事業経営に取り組んできた経験をベースに、基本的なマーケティング理論にのっとった観光地経営(または観光地における事業経営)についてお話ししたいと思います。
「AISASモデル」における5つのデザイン
ここでは基本的な消費者行動を「AISASモデル」に準拠して考えたいと思います。人々が毎日自分で様々な事柄を検索するのが一般的な現代においては、普遍的なマーケティングモデルと言われているものです。まず商品を知る(Attention)、次にその商品に興味を持つ(Interest)、これ気になるな、欲しいな、と思って検索をする(Search)、これは自分にぴったりだと思って購買する(Action)、買ってよかったものを友達に勧めたりSNSで発信したりして共有する(Share)。それを見た友達がこの商品を知って、興味を持って、検索して…という循環する流れがある、というのが、AISASモデルの基本的な考え方です。
一般的な商品だけではなく、観光地やホテルも同じ流れで考えることができると思っています。なぜなら、顧客との関わり方の中においては、観光地やホテルも1つの商品に過ぎないからです。
ところで、このAISASモデルが"循環している"と言いましたが、Attentionでゲストが商品を知ったらそこからは自動的にAttention→ Interest→ Search→ Action→ Share....と次の行動へと導かれているとつい思ってしまうところですが、当然そんなことはありません。これらのひとつひとつの行動の間には実は非常に高いハードルがあって、そのハードルを乗り越えてもらうための『ハシゴ』を事業者側がかけてあげる必要があるんですね。
そして、ここに『5つのデザイン』が存在します。
①イメージのデザイン
まずは、観光地やホテルを知ってもらって、そして興味を持ってもらわなくてはならないのですが、その間には大きなハードルがあります。確かに、知ってはいるけど行きたいとは思わない場所ってたくさんありますよね。ここで必要なのは『イメージのデザイン』。せっかく知ってもらえてもただの情報として素通りされてしまうので、人々が「行きたい」と興味を持てるような『イメージ』を作ることがまず必要です。
②情報のデザイン
その次に必要になるのは『情報のデザイン』。なぜなら、興味を持って調べてみたものの、「欲しい情報にたどり着けなかった」もしくは「求めていたものと違った」といった形で、そこでお客さんが離脱してしまうことも多いからです。そこで、いかにスムーズにその方が求めてる情報にたどり着いてもらえるようにするかが重要になります。
③理由のデザイン
さらにその次は、『理由のデザイン』が必要です。お客さんが素敵だと思ったとしても、ほとんどの場合、そこに今すぐ行く理由や今すぐ買わなければいけない理由ってないんです。素敵だと思っている状態から実際に行動に移すまでの間には、すごく大きなギャップがあるので、それを埋めるような「今行きたい、今ほしい」と思っていただけるような理由を、事業者側でしっかりデザインしないといけません。
④口コミのデザイン
そうして、お客さんが実際に来てくれた(買ってくれた)とします。でも、そのまま帰って終わってしまったら、もう一度、誰かに「知ってもらう(Attention)」ところから始めないといけないですよね。そこで、そのお客さんがご友人やご家族に話したりSNSで発信したりして共有してもらえるよう、『口コミのデザイン』が必要になるのです。お客さんが思わず発信したくなるような仕掛けを、サービス提供者がしっかり用意してあげるというのが、SNS時代の新しいおもてなしだと思っています。
⑤きっかけのデザイン
最後に必要なステップは、共有していただいたものを他の人が知るきっかけを作るという、『きっかけのデザイン』です。
AISASモデルの5つのフローの間には、実はすごく高い壁があります。お客さんにそれを乗り越えていただけるよう、これらの5つのデザインが必要だと私は考えています。
では、突然ですが、ここからこの5つのデザインをより深く掘り下げていきます。話を分かりやすくするために、ハンバーガー屋さんの話に例えながら考えてみたいと思います。
あるハンバーガー屋さんが困っています。「以前はバスツアーなどで毎日お客さんが来てくれていて、ハンバーガーが飛ぶように売れていた。でも、コロナでバスツアーも来なくなってお客さんが減ってしまった。このハンバーガーをどうやって売ったらいいのか」と。
私が「そのハンバーガーは、どう美味しいのですか」と聞くと、「お肉はジューシーで、レタスはシャキシャキしていて、チーズはとろっとしていて、すごく美味しいんです」と教えてくれました。
でも、これを聞いた私はこう思うんです。(ハンバーガーって普通そうだよね。それは、このハンバーガーの美味しい理由かもしれないけれど、他のハンバーガーにはないような魅力にはならないな・・・。)そこで、このハンバーガー屋さんにアドバイスするとしたらと、皆さんならどう言いますか。少し考えてみてください。
ハンバーガー屋さんの事例から考える①イメージのデザイン
このハンバーガー屋さんと同じケースが、観光地やホテルにもありえると思うんです。
これは独断と偏見によるもので恐縮ですが、私の考える『この街の魅力 三大悪い例』があります。色々な街に訪れてきて、「この街の魅力はどういうところですか」と伺う機会が多いのですが、高頻度で登場するのが、「豊かな自然」「美味しい食事」「温かな人々」。
私は、この3つは「街の魅力」を表す上では悪い例だと思っています。なぜなら、これらどれにも当てはまらないなんて街は、基本的には日本のどこにもないからです。観光地は絶対このどれかには当てはまっているので、これらは街の良いところではありますが決してユニークなところではなく、わざわざ人が行く理由にはなれないと思うんですよね。
興味を持ってもらう上で必要な最初のステップは何だったか、覚えていただいているでしょうか。「イメージのデザイン」でしたね。人は無意識下で、あらゆる商品やサービスに対してなんとなくイメージを持っています。イメージがしっかりあるものであれば、より深く知ってもらいやすく、実際に興味を持ってもらいと思います。
観光地やホテルも同じで、イメージのデザインをしっかりしてあげることで、消費者の興味や関心を喚起し、購買に繋がりやすくなります。
さて、先ほどのハンバーガー屋さんへのアドバイスは考えていただけたでしょうか。例えば「佐世保の海軍基地で修業を積んだシェフが、長崎牛を使って本場の味を再現した、アメリカンなハンバーガーなんです」と言われたらどうでしょう。「豪快でボリューム満点だな」「本格的で高級感あるな」「ローカルグルメなんだ」といった、このハンバーガーのイメージができて、「食べてみたい」と思えてきませんか。
商品の独自性や雰囲気をうまく言語化してお客さんへ伝えることで、お客さんはその商品やブランドのイメージが持ちやすくなって、消費者の興味を喚起することができます。このことは、ハンバーガーのような商品はもちろん、観光地やホテルにも全く同じ考えを応用することができるのです。
では、今度は、同じような考え方で「この街ってどういうイメージだろう」ということを想像していただきたいと思います。私がこれまで訪れて来た色々な街では「うちには何もないよ」とおっしゃる方が多かったんです。でも、この街の方々にお会いしていると、皆さん、自分の街のことを愛し誇りに思っていらっしゃることが感じられて、素敵だなと思っています。
一方で、今までこの街に関わったことのない外の人からすると、やはりイメージが湧きにくいのも事実。そこで、住んでいる方やそこで事業をしてる方からすると、この街のイメージってどんなものなのか考えていただきたいんです。
イメージを作れたら、言葉で伝えるだけではなかなかお客さんに感じ取っていただけないので、さらに、それをいかにお客さんの旅行体験や宿泊体験の中に落とし込んでいくかが重要になります。イメージに基づいた商品開発をする、つまり、お客さんが、旅行体験を通じて「この街ってこういう場所なんだ」と感じ取れるようコーディネイトするのも、観光業・宿泊業で商いをする者の役割だと思っています。それも併せて考えていただければと思います。
急に考えてと言われても考えにくいと思うので、私たちが考える時によく実践している3つの方法をご紹介します。なお、この3点については、以前、『「愛とユーモアでホテルをつくる」拡張版講座』の記事の中でもお話ししているので、さらに詳しい内容を読み返したいという方は、こちらをご覧ください。
①似たジャンルの他の土地と比較する
まず、とっつきやすい方法として、
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