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たびの記憶のうつわを作る|HOTEL in HOTEL連載vol.2「mui たびと風のうつわ」

「HOTEL SOMEWHERE」というオンラインのホテルへ、いろんなホテルが出向いていただく「HOTEL in HOTEL」連載企画。

ここでは、CHILLNNに掲載されているおすすめホテルの方々に、「HOTEL SOMEWHERE」へと来ていただき、「HOTEL in HOTEL」を実施します。と言っても実際に空間はないので、この記事こそが「HOTEL in HOTEL」。この記事の中だけはオンラインに存在する別のホテルなのです。「HOTEL SOMEWHERE」の中で語られる日本中の素敵なホテルの物語。是非ご堪能ください。

今回は沖縄で自然と創造をつなぐ宿「mui たびと風のうつわ」が登場します。


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人生はしばしば“旅”で比喩されるように、旅は生きる表現が詰め込まれています。旅好きな自分が宿を始めたいと思ったのはいろんなきっかけがあったとは言え、とても自然なことでした。

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muiのロゴのサイン 地域のイラストレーター坪田朋子さんが風を表現するのに浮かぶ雲を見て描いた

旅に出る前のわくわくする高揚感、旅先で感じる手触り、時空を超えて旅の記憶をなぞり、からだに染み込ませる。

感動で脳の命令よりも早くシャッターを切る瞬間。

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浜川御嶽(ハマカワウタキ) 沖縄の神様が仮住まいしたと言われている場所

人は思ったよりも考えて行動してはいなくて、旅に出るとじわりと湧き起こる好奇心にからだを自然に動かされる。

普段は意識もしないのに、木々の音色や鳥の声、虫の音、大地や砂の手触り、水の香りまで、感覚が思考を洗うように押し寄せる。

それを魂と表現するのか、旅という形のない何かがそうさせるのかは分からないけれど、頭であれこれ考える前にからだが自然と動き、感じるその瞬間に僕はとても自由で居心地の良さを感じるのです。

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ヤハラヅカサ 沖縄の神様が久高島(神ノ島)から本島に初めて渡ってきたとされる浜辺

そんな“私”から離れる瞬間が自分にとっての“無為自然”でした。

大学時代の恩師との出会いで老子の無為自然という言葉に出会い、宿にmuiという名前をつけました。

無為自然は“作為なく、自ずと然る”という意味。

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垣花樋川(かきのはなひーじゃー) 日本の名水100選に選ばれた豊かな湧き水

生まれたばかりの赤ちゃんがどれだけ泣いても声を枯らさないのは無為だから、水は高いところから低いところを流れ、硬いものにあたっても染み込み、包み込み、形を変えてもその本質を失わない。そんなしなやかさ、自ずと然る。

心臓の鼓動が早くなって、そうせざるを得ない恋のような衝動。

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奥武島で遊ぶ地域の子供たち

今生きている

そんな瞬間に憧れるのです。

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もともとの土地の傾斜をそのまま残した共用部、外と中の境界が曖昧な空間。集落の小道を歩くように。

muiを建築家の五十嵐さん(STUDIO COCHI ARCHITECTS)と一緒に一からつくっているとき、それはとてもわくわくする楽しい時間でした。

いつの間にか頭に貼り付いた“ホテル”という概念を少しずつ剥がしながら、効率と利便性、快適性、エンターテイメントやサービスを追求するのではなく、より自由に感性と良心に従って。

インテリアで飾るのではなく、建築を通して生まれる光や、風、鳥の声が自然と調和して流れ込んでくるように。自ずとなにかを感じるような空間に。

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銅板のレセプションカウンターに光があたり研磨された石模様の地面に波のように反射する

中と外、利便と不便、自然と人工物、暮らしと旅、文化とアート、専有と共有、合理と非合理、作為と無作為、言葉でつくられてしまったそれぞれの境界を曖昧にしながら繋げる。

迷ったときはどちらの選択肢がよりワクワクするか、心のままに決めるのは旅のようでもありました。

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外壁のイメージの元にした敷地の岩肌。周囲に溶込む土壁をイメージし、漆喰と藁とサトウキビを混ぜた。

muiは沖縄の宿ですが、リゾートの様な施設も、海の絶景もありません。高級ホテルの様なサービスがあるわけでもありません。muiが旅の目的地になることを望んでいるわけでもありません。

おとなりでは地域の方が、島らっきょなどの島野菜を育て、一方ではサトウキビ畑が広がっている、そんなありふれた沖縄の日常に建っています。

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muiの共有スペース、囲炉裏と煙突、とこれから生い茂り森の様になるであろう植樹したたくさんの草木

それでももしmuiに来ることでなにか新しい気持ちや感覚が芽生えることが少しでもあれば、きっと素晴らしい旅をそのうつわに盛り付けていただけるのでないかと密かに願っています。

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各客室に用意したご近所の陶芸家nakamurakenoshigotoの心地よい暮らしがテーマのうつわたち 

muiを好きになってくれる方はきっとこのありのままの地域の良さに気づいていただける。誰かにつくられた価値やマーケティングされた価値をなぞるのではなく、心のゆくまま湧いてくる衝動や感覚に素直に、水の流れの様にたおやかに。

きっとそこには残したい未来がつまっていることを信じて

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muiに訪れた方が一瞬でも心に残る旅の記憶を刻んでいただけたらこんなに嬉しいことはありません。


文:西 悠太 (mui たびと風のうつわ)
写真:OOKI JINGU
※ 文章・写真の無断転用禁止

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