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創設者対談・なぜ今観光のためのアカデミーを立ち上げるのか?

L&Gでは今月、観光教育の企画・運営を行なう一般社団法人Intellectual Innovationsと共同で観光業界の未来を支える、人材育成のためのアカデミーを立ち上げました。

これから学術機関での講座の企画やコンサル事業などをやっていこうと考えているわけですが、そもそもどのような思いでこのアカデミーを立ち上げたのか。ここではIntellectual Innovationsの池尾健・代表理事とホテルプロデューサーの龍崎による対談をお届けしたいと思います。

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龍崎翔子/L&G GLOBAL BUSINESS代表取締役・ホテルプロデューサー 
2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON 」をスタート。2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。今年はホテル予約システムのための新会社CHILLNNを本格始動。ホテル宿泊券の販売サービス「未来に泊まれる宿泊券」や、新型コロナウイルスによって稼働率の下がったホテルと自宅が安全ではない人々をマッチングする予約プラットフォーム「ホテルシェルター」などの事業を開始。

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池尾健/一般社団法人Intellectual Innovations代表理事
ホテル運営実務に携わった後、New York Universityにてホテル投資・ファイナンスの修士号取得。その後、ゴールドマン・サックス、フォートレス・インベストメント・グループにて、ホスピタリティ投資プラットフォームの構築を主導、株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメントの立ち上げをはじめ、数々の事業再生・企業投資案件に携わる。2017年7月より、観光立国を担う人材投資、関連する教育・研究機能の再定義をテーマに独立、起業。現在は大学における教育・研究活動の傍ら、産官学連携を通じた一部上場企業のオープンイノベーション、新規事業プロジェクトのマネジメントを始め、スタートアップ・中小企業の経営・投資アドバイザリー業務などに携わっている。その他、Flat Collaboration合同会社創設者兼CEO。立教大学特任研究員、京都大学非常勤講師 、Hospitality Asset Managers Association JapanのBoard Director for Educationも務める。


ホテルへの投資は人への投資

池尾:僕はホテルの皿洗いという現場からキャリアを始めてホテル業界のいろんな人と関わる中で、同じ施設でも人の良し悪しによってパフォーマンスが変わってくるということを感じていました。投資会社で働いている間も、人への投資が重要だということを意識していたんです。そんななか、投資やプロジェクトの期間だけではなく、もっと中長期的にホテルやその周りにいる人と関わりたいという思いから独立をしました。それ以降、人の学びを中心とした取り組み、メインとしては若い人への教育支援を仕事にしているわけです。そして彼らの実地経験の機会として、プロジェクトベースの仕事も幅広く手掛けています。

今から3年くらい前、投資会社時代に、知人から若くて面白い人がいるという話を聞いて翔子さんのことを知り、wantedlyでDMを送りました。それでお会いさせていただいたのが最初でしたね。その後、独立をして京大の観光MBAを立ち上げることになった際には、京都の数少ないホテル経営事例だということで、自分にとって初のケース作成のため、インタビューをさせていただきました。

龍崎:その頃から池尾さんの教育と観光のクロスオーバーへの関心度の高さを感じていましたので、今に至るまで変わらずに意思が続いてるんだと思います。

池尾:僕自身も試行錯誤しながら、大学など教育機関にアプローチをしてきたなかで、本質的に教育を変えていくなら外からムーブメントのようなものを作っていくほうがいいということを学びました。L&Gではコロナショック以後に「ホテルシェルター」などたくさんの取り組みをされていますが、そうやって外から業界に影響を与えていくのが遠いようで一番近道なんだと思ったんです。

龍崎:もともとコロナショック以前は、ホテルというアセットを活用してやりたいことやっているだけで、自分たちがホテル業界の人だとは思っていなかったし、観光業界を意識したこともありませんでした。だけど、観光業全体が危機に瀕したことで、私たちも観光業という大きな産業の一部だということを実感しました。

私たちの会社は、外から見ると、つねに面白い取り組みをしているように思われるかもしれませんが、自分たちの感覚としては、他の業界では当たり前にやっていることをホテル業に取り入れているだけ。観光という分野で見ればホスピタリティが重要かもしれませんが、それ以上に宿泊商品としてどうマーケティングするかとか、ホテルの魅力をどう高めるかとか、時代をキャッチアップしながらやっていくべきことはたくさんあると思います。

一方で、観光業界の方々に会うたびに、みんなが答えを求めているような気がして、そこに問題意識を感じていました。観光業界にはナレッジをシェアする仕組みがほとんどありません。だから、学びの場は必要だし、スクールを作りたいということをちょうど考えていたんです。偶然にもいいタイミングでお声掛けをいただき、ご一緒させていただくことになりました。

おもてなし偏重の観光業界に対する違和感

龍崎:池尾さんは、アカデミーを通じて、どんな人を育成したいと考えていますか。

池尾:一般的にホテル業界の方のスキルをレーダーチャートにすると、すごくいびつになります。接客に秀でていても数字が極端に苦手だったり、反対に数字が得意でも接客はできないというような人もいる。だから、これまでも教育を通じて、いかにその人の特徴を活かしながら必要な知識やスキルを底上げするかを考えてきました。これからは、その丸が小さくてもいいからバランスよく幅広いスキルを持ちつつ、得意な分野を尖らしていく人材を増やさなければいけないと考えています。

龍崎:観光業全体で「おもてなし」への信仰が非常に強く、思考停止状態になっているなと思うことが多々あります。そもそも、今の日本のホスピタリティ偏重はなぜ起きているんでしょうか。

池尾:明治維新までさかのぼると、列強国に伍するために欧化政策を進めるなかで、外国人のVIPを迎賓する、そして迎え入れられる施設があること自体が国としての政策だったんです。そこで半ば採算度外視でも奉仕していくことが「おもてなし」や「サービス」として捉えられ、それがまた観光業界のテンプレのようになってしまった。そのフォーマットが今まであまりアップデートされてこなかったんです。

龍崎:事業会社をやっていると、スタッフのモチベーションを保つ上でも、接客のような数値化できない、ゴールのない部分にやりがいを感じてもらったほうがいいと考えるホテルが多いことは十分理解できます。一方で、どんな体験設計をすべきか、どのように宿泊商品を売っていくかということを考えられる人はほとんどいません。おっしゃる通り、いびつな才能の両極端をつなぐための教育は必要だと思います。

池尾:さらに言えば、ホテルの需要が増えているタイミングでホテルに参入する供給プレーヤーは多いですが、需要を作ることを考えられないとそもそも今のような環境下ではビジネスは成り立ちません。自分できちんと考えてビジネスを作れる人が本当に少ないので、最終的には“需要をデザイン、創造する教育”が必要なんだと思います。

龍崎:観光業界全体で優秀な人材を確保できていないというのも課題ですよね。大手ホテルでは下積みを何年もしなければ意思決定権を持てないけれど、それまでに優秀な人は辞めてしまうし、マーケティングのような分野で外から入りたくても入る余地がない。

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いま求められる観光人材とは?

池尾:国内では立教大学の観光学部が最大規模ですが、そのうちホテル・観光分野に就職する人は2割程度。学生と話していて一番衝撃的だったのが、一部の学生が観光に対してネガティブなイメージを持っていることです。無垢な状態で興味を持ってくれる若い世代に対して、人生の先輩たちがある意味最初にバイアスのかかったインプットをしてしまっている可能性があるんですね。だから、入口のところで面白い人、前向きな人と学生を向き合わせなければいけないし、きちんとあらゆる選択肢を見せてあげる必要があります。

龍崎:私も観光学部の人に話を聞いた時に、何を学んでいるかを自分の言葉で語れない子がいたのは衝撃的でした。あと、以前大阪にホテルを作る際に、近くでセミナーがあったので参加してみたんですが、権威ある先生が「これからはスマホの時代です!ガラケーやポケベルではないんです!」と高らかに語っているのを聞いて驚きました。学びの質が低すぎる。なぜ、こんなずれたことを堂々と話しているんだろうと疑問に思ったんです。だから、時代の流れをキャッチアップした、業界のトップランナーたちの体系知を広くシェアしていくことが今の業界には必要だと思っています。

池尾:年齢構成の問題もあると思います。もともと40代中盤より若い世代は人口自体が減少傾向ですし、一般的なホテルだと、30代の中間層が結婚、出産などのライフタイムイベントの影響もあり、産業自体から退出しているので、他の産業に比べてその世代の就業者構成比が低い。新卒で入った20代は、年齢が離れた世代との就労も多く、40代~50代といった管理職世代も決して楽な労働環境にはありません。これでは業界に憧れる若者も増えませんし、無垢な状態で入ってくる希望ある若者に、導き手としての先輩をマッチングする必要があるんです。

龍崎:これからオンラインスクールをやりたいと思っていますが、まさにそのあたりがミッションになるのかなと。座学だけでなく、実践的なワークショップを開催して、才能を求めている自治体や企業と、観光に携わりたい若手をマッチングするような場所を作りたいと思っています。

最近は、ようやく外から入ってくる素晴らしいプレイヤーが増えてきたと感じます。今後講座などにも関わっていただく「柳川藩主立花邸 御花」のマーケターの金原さんや、奈良県で「ume, yamazoe」を営むオーナーの梅守さんなど、別の業界で培ったスキルセットをそのままホテルに実装できる方が増えてきました。そうした方をどんどん増やしていくことが、これからの観光業に必要になると思います。

池尾:誰が伝えるのかも大事ですね。私の授業でも、分野によっては弊社の鈴木が担当した方が学生の理解度があがることがある。自分と同じ目線を持つ人が伝える方が伝わりやすいんですね。これからは同年代や年下から教わることが当たり前になってほしいですし、大学のような場所でも、若い人から年長者が学ぶということは取り入れていくべきだと思います。

龍崎:IT業界なら時代をキャッチアップしていることが重要なのに、観光業界では登りつめた人が偉いということになる。本来ならお客様としての感覚を持っている若い人たちの意見をもっと取り入れるべきですよね。若い方でホテル業界に就職する方には伝えるんですが、「自分自身が何をイケていると感じるか、その解像度をあげていくことが一番大切」だと思います。


二人が描く観光アカデミーの未来

龍崎:尾道や美瑛、直島など、誰がやっているかは知らないけれど、イケてる場所って世の中にたくさんあるじゃないですか。その街には必ず成功の立役者がいるはずなんです。その人がなぜ集客しようと思ったのか、なにを実践したのか、今期のオンラインスクールではそんなことを深掘りして聞いてみたいと思っています。これまで「HOTEL SOMEWHERE」の対談記事でたくさんの方にお話を聞かせていただきましたが、これからはアカデミーでもそのような視点を取り入れていきたいですね。具体的に今興味があるのは、ジェントリフィケーション。たとえば台湾の富錦街という街を作り上げたJay Wuさんや、大阪にある堀江地区のイメージを一新したカフェなど、これまで体系化されていない具体的なプロセスをどんどんアーカイブしていく場所にしたいと思います。

また、ホテルに関わる人は多種多様だからこそ、マネージャーに求められるスキルや、ホテルを作るために必要な能力・プロセスなどにはさまざまなやり方があるんです。そこに対して目安になるようなスキルセットも作っていきたいとも思います。

池尾:学んだことを体系化できるようなフォーマットを作ることは大切ですね。今の大学で使われているカリキュラムに影響を与えるものになれるかもしれませんし、そんな取り組みによって外から大学を変えていけるのかもしれない。

龍崎:学術機関と連携することの意味は大きいですよね。単純な講座運営ではなくて、ここで得られた知識をアーカイブしたり、そもそも学問として扱うことは、観光学の発展にもつながるはずです。

池尾:大学は、プロフェッショナル人材の育成という役割以外に、本来的には研究者、教員を育成する機能を持っています。我々は実学に近い部分をやることが多いかもしれませんが、知の財産を蓄積して人類の歩みを進めていくことが研究でもあるし、それを体系的に教えられる人を育てることも意識しなければいけません。そしてその部分も中長期的に支援していきたいですね。

龍崎:これは夢物語ですが、「SOMEWHERE」という場所が観光のシンクタンクになっていけたらと思います。今個人的に楽しみにしているのが、SIRUPさんとの寄付プロジェクトから生まれた「LGBTQフレンドリーな空間づくり」のためのワークショップなのですが、これまで体系化されていない分野やトピックスにおいても、体系化して実装していけるんじゃないかと思います。

池尾:学校法人の経営も社会課題になってきていますが、われわれのような民間プレーヤーが学校という場所を活用して、新しい学問の発展に少しでも寄与できるのであれば嬉しいですね。


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