【SUISEI WORKS🪐】 SOCO HAUS 水星×三井不動産レジデンシャル　ホテルの発想でつくる新しい住空間の選択肢

2024年6月17日 21:05

水星が手掛ける様々なプロジェクトの事例を紹介する「SUISEI WORKS」。
今回は、三井不動産レジデンシャル様をクライアントに足掛け3年に渡って、試行錯誤を重ね、この度、3月に第一弾の拠点がオープンした新しい都会のライフスタイルを提案する賃貸レジデンス SOCO HAUSのプロジェクトについて、水星代表/ホテルプロデューサーの龍崎にインタビューをしました。

「ライフスタイルを共有する」住まいの新しい選択肢をつくるプロジェクト

ーSOCO HAUSは、水星にとってどのような狙いを持ったプロジェクトなのでしょうか？はじめにプロジェクトの概要について教えてください。

龍崎：SOCO HAUSは、三井不動産レジデンシャル様と一緒に、水星の「ホテル観」を「住宅に転用する」ことに初志貫徹して取り組んできたプロジェクトでした。私たちが掲げる「ホテルはメディアである」「ライフスタイルを試着する」といったコンセプトを、より日常向けにチューニングして考える中で、共通の趣味嗜好を持つ人たちと暮らし、生活の空間・機能を共有することで、より豊かでより身軽な暮らし方ができるのではないか、という仮説が生まれ、これが結実したのが、SOCO HAUSです。

一見「シェアハウス」をイメージされる方も多いと思いますが、私たちはシェアハウスとは全く異なる発想で作っています。シェアハウスは「誰かと一緒に住むこと」に重きを置いているのに対し、SOCO HAUSは「ライフスタイルを共有すること」を大切に、コンセプトや空間設計をしています。住人みんなで1つの理想のライフスタイルを共有することで、1人暮らしではできない住まいのあり方を実現したところが大きな特徴です。

一般的にマンションなどの集合住宅は、自分とは違う趣味嗜好を持つ他人と暮らすことを前提として作られています。そのため、白い壁紙やフローリングの床など万人受けするもの、言い様によっては無味乾燥なマンネリ化したものになってしまう。当たり障りのない空間やデザインであることが良しとされているホテル業界も、昔は同じ状況でした。そうした中で、私たちは、「ターゲットが狭くなってもいいから、私たちが作りたい世界観を追求する」という考えで、これまでHOTEL SHE,や香林居という新しいホテルの選択肢を世の中に生み出してきました。SOCO HAUSも、その時と同じように、1つの理想的な家のあり方を描くことを大切にしました。

ーレジデンスの開発は、水星にとってはじめての挑戦ですが、プロジェクトがスタートした経緯について教えてください。

龍崎：始まりは、私たちからアプローチをしたわけでなく、三井不動産様の事業提案制度に端を発しているプロジェクトでした。事業起案者の方が、私たち水星の考え方に共感してお声がけくださりました。

3年越しの本プロジェクトは、大きく2段階に分けられます。1期は、実証実験期。都内某所にある物件を一棟貸し切って内装を少しDIYし、三井不動産関係者の方々に1ヶ月間住んでもらうという実証実験をしました。そこで、一定のニーズがあり集客が見込めそうだという成果と確証を得られたので、具体的な物件探しに移りました。そこから2期がスタートします。情報収集や調査を進め、最終的に三井不動産の旧社寮をリノベーションすることに。物件が決まったことで、具体的なコンテンツやクリエイティブの開発により注力できるようになり、プロジェクトが一気に進んでいきました。

都会暮らしの「不」を解消するための「ホテルの快適さ」×「家の自由さ」

ー「ライフスタイルを共有すること」をテーマにコンセプトや空間の設計をしたというお話がありました。実際に、空間やサービスを実装していく過程で意識していたことについて教えてください。

龍崎：水星は、「世の中に新しい選択肢を増やしていく」をミッションに、主にホテルの分野で取り組んできました。その中で、いつも忘れず意識していることの1つが、「私たち自身が生活する中で感じる課題を解決しよう」という視点です。

私自身、学生時代の生活拠点は東京で、1人暮らし、同棲生活、二拠点生活と様々なライフスタイルを経験する中で、住居が変わる度に大きな不便さを感じていました。家具だって、運ぶのも一苦労ですし、友人に譲ったりもしたけどサステナブルではない。買い換えるのもお金が勿体無い。また家電も、洗濯はコインランドリーだって良いし、レンジも温められさえすれば機能にこだわりはない。特に思い入れのない家具・家電を所有していることが、自分の生活や移動の自由度を下げていることにストレスを感じていました。そして、自分が所有する必要のないものが思ったよりたくさんあることに気づき、そういうものたちを部屋の外に出せたら、好きなもの、やりたいことを詰め込む余白を作れるな、と思っていたんです。

さらに、都心で1人暮らしをすれば、月10万円の家賃を出しても、狭くて薄暗い間取りに、シンクの狭いキッチンやユニットバスは当たり前。壁に穴を置けられず模様替えの幅も狭まるし、パンを作りたくてもオーブンを置く場所がない、絵を描きたくてもキャンバスを広げる場所も飾る場所もない…憧れていた東京生活でも、果たしてこれは豊かな生活と言えるのでしょうか。家は生活の中で長い時間を占める場所なのに、家自体が制約になって、自分のしたいことや好きなことができない現状が、私に限らず、東京に限らず、往々にあるのではないかと感じています。

今まで自分の実体験の中でぶつかってきた課題を解決できるような家がない。それなら自分で作ればいい。それはきっとみんなにとっても、より軽やかでヘルシーな暮らしを叶える家になる、そんな気持ちで、理想の家を追い求めてきました。ホテルと自宅を行き来する仕事柄なこともありますが、「ホテルの快適さ」×「家の自由さ」のハイブリッドというイメージも、SOCO HAUSで描きたかったことでした。

「だらしなく過ごせるのが家の良さ」　毎日生活する空間のディレクション

ーこの度3月にオープンしたSOCO HAUS KORAKUENの内装やクリエイティブで、具体的にこだわったポイントはありますか。

龍崎：クリエイティブ全体をディレクションするにあたり、意識していたポイントは3つあります。

1つ目は、「パブリックな空気感にしない」こと。いわゆるシェアハウスやシェアオフィスのような商業感があると、家に帰ってもスイッチがうまく切れないと思うんです。良い意味で気が抜けた大らかさ、それでいて気の利いた美しさも感じられるような住まいを作りたいと思いました。リノベーション前の社員寮時代もとても素敵な建築で、90年代エネルギーに満ちた日本を支えて働く方々の息づかいが感じられる空間でした。初めてこの物件に足を踏み入れた日、かつての生活の気配や人々の残留思念みたいなものを感じて心が揺さぶられ、リノベーションするにしてもこの生活の温もりを踏襲したいと思ったことを覚えています。

2つ目は、「お洒落過ぎない」こと。毎日生活する空間がおしゃれすぎると、なんだか緊張してスイッチがオンになってしまうなと思って。程よい力の抜け感を大事にしたいと考えていました。今回ご一緒させていただいた方々は、みなさん実績あるトップクリエイターで、今までも様々なプロジェクトでお世話になって信頼している方々なのでお願いしたら最高にお洒落なクリエイティブをつくってくださることは分かっていました。ただ、今回は、ホテルのような非日常空間とは違って、住人が毎日暮らすところなので、程よい力の抜け感を大事にしていただくようお願いしていました。

空間ディレクションは、「香林居」も手がけていただいた「ひとともり」の長坂さん率いる建築チームにお任せし、家具1つから照明、壁紙、間取りまで、素材感を大切にした空間作りをしていただきました。例えばリビングには、はじめはビッグテーブルと椅子を置こうと考えていたのですが、テーブルにすると背筋がピンとなってしまうと思って、重心を下げローソファーにすることに。

アートディレクションは、「HOTEL CAFUNE」のADをしていただいた脇田さんにご依頼しました。彼女のクリエイティブは、女性的でありつつ可愛すぎない、素朴さと洗練さのバランスが取れた、暮らしに馴染むデザイン。生活空間の中に脇田さんのアートがあることが、全くノイズにならないんです。

SOCO HAUS ロゴ
Art Direction / Logo Design / Web Design　脇田あすか＋山口日和

3つ目は、「機能を詰め込み過ぎない」こと。世の中には、オシャレなテナントが入っていたり日々ワークショップが開催されたりしているシェアレジデンスもあり、それも素敵だと思いつつ、個人的には、家がそれだと疲れてしまう気がして。帰ったらスイッチオフになれるような家にしたかったので、SOCO HAUS KORAKUENには、機能をあれこれ盛り込まないように意識しました。

シェアレジデンスってコミュニケーションがつきものだというイメージがあると思うんですけど、全員が入居者と交流するために住んでいるわけじゃないですし、やはり自分の時間は大事にしたいですよね。仲良くなりたい人同士が仲良くなったらいいし、それは強要されるものであってはならないと思います。SOCO HAUS KORAKUENは、共有部は入居者と目線や動線がぶつからない間取りやレイアウトを意識して、ハウスルールにも入居者同士の距離感に配慮してもらうような内容を定めています。「空間はシェアするけど、時間はシェアしない」のが、SOCO HAUSの特色の1つです。

私は、「だらしなく過ごせる」のが、家の良さだと思っています。すっぴんで部屋着で、リビングでこのソファに寝転がりながら、好きなおやつを食べてもいい。それができないのだったら、そこはその人にとっての家ではなくなってしまう気がする。だらしない自分でいても、そんな生活が愛おしく思えるような住まいを目指しました。

ホテル業は、ライフスタイルを、ハード・ソフトの両軸で提供できる唯一の事業

ーSOCO HAUS KORAKUENのモデルルームも、見ているだけでもとても面白いです。

龍崎：内覧いただく際に、SOCO HAUSでの生活をより具体的にイメージしていただけるよう、3パターンのモデルルームを作りました。プロのインテリアデザイナーやスタイリストにお願いするのではなく、あえて、私含め3人の”素人だけど自宅の空間にこだわりを持つ生活者”をアサインしました。それは、”作り物感”を出したくなかったからです。生活者の視点で「自分だったらこういうお部屋で暮らしたい」という気持ちを落とし込むことで、自ずとそのライフスタイルの違いがお部屋に現れ、よりリアリティを持ってみていただけると考えました。

私のお部屋は、出張やオンラインミーティングが多い人のセカンドハウス的なイメージ。文筆家の塩谷舞さんのお部屋は、ここで暮らしながら創作活動もするアトリエも兼ねた住居のイメージ。SNSディレクターの谷本好さんのお部屋は、仕事は外で、家は仕事と切り離してリラックスする場所のイメージ。間取りはほぼ同じなのに、ライフスタイルや使い方によって三者三様の生活の景色がお部屋にも現れていて、家には暮らす人の人格が滲み出ることを、改めて感じました。

場所：ROOM4 / 24年3月現地撮影：龍崎翔子(ホテルプロデューサー)コーディネートの部屋

場所：ROOM3 / 24年3月現地撮影：谷本好(SNSディレクター)コーディネートの部屋

他にも、例えば留学前や実家を出た直後のランディング期間など、期間限定の仮住まいとして使っていただくのもいいですね。引越しとなると一大事だしお金もかかりますが、そのハードルを下げ次の生活への踏み台になるような住まい方ができるのではないでしょうか。

ーつくり手がいち生活者の視点で考えて作られているからこそ、より解像度高く理想の暮らし方を叶える新しい選択肢を作ることができたんだなと、改めて感じました。「ホテル×住居」モデルも、色々な場所や形で展開できそうですね。

龍崎：私は、「ライフスタイルや生活環境を、ハード・ソフトの両軸で提供できる唯一の事業」がホテルだと考えており、このSOCO HAUSのプロジェクトもホテルの延長線上にあります。ホテルは普通1泊〜数泊単位ですが、それがHOTEL CAFUNEのような産後ケア施設だと数週間〜1ヶ月単位になり、 SOCO HAUSのようなシェアレジデンスだと半年〜年単位になるだけの違いと考えて、そこをもっとシームレスに捉えれば、サービスの可能性はもっともっと広げられるはず。ホテルに対する考え方を他の領域にも広げることは、今までずっと水星として取り組んできたことですし、今後もどんどん「ホテル × ◯◯◯ 」の新しい領域に挑戦していきたいと思います。

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