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ロマン受け継ぐ宿。|なくならないでほしいホテル Vol.3

「HOTEL SHE,」などを運営するL&G GLOBAL BUSINESSで働くスタッフや、いつも応援してくださる皆様と一緒に「なくならないでほしいホテル」という連載をはじめました。絶対になくなってほしくない推しのホテルを主観たっぷりでお届けします。

「旦那。今どき木造なんて時代おくれですよ。鉄筋コンクリートに建て替えましょうよ。」

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この宿の亭主たちは、何度そんな言葉をかけられてきたのだろうか。純日本建築の旅館は、創業当初の趣をそのままに、100年前とほとんど変わらぬ凛とした姿で佇んでいました。

■かつての職人たちの、心意気と記憶をつむぐ

多くの国宝や重要文化財が点在することから「信州の鎌倉」とも言われる、長野の別所温泉。開湯1200年と古くからの歴史を持つこの温泉地に、大正6年創業の老舗宿「旅館 花屋」があります。ほぼ全館が登録有形文化財に指定されているこの宿の魅力は、レトロモダンなしつらえと建築美です。

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建物は、棟ごとに渡り廊下で繋がれた回廊づくり。特に池の中央を渡る回廊の景観は、思わずため息が出るほどの美しい眺めでした。

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訪れた日は、吐く息もまだ白くおまけに強い雨がふり注いでいましたが、寒さも忘れしばらくじっと庭を見つめ立ち止まってしまいました。外と内が一体化したような空間に自分も溶け込み、日本人は昔から自然と共にあることを大切にしてきたのだろうなぁ・・・と実感します。

明かりは、すべて白熱灯。明るすぎない柔らかな光は、心を和ませ幻想的に館内を彩ります。館内の照明も1つ1つ形や柄が違い、さまざまなデザインがあるのも見どころの一つでした。

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お寺の多い土地柄、昔から腕の立つ宮大工が大勢いたため、この宿は彼らの手によって造られました。全部屋、広さ・眺望など間取りがすべて異なり、建物を美しく彩る細やかな装飾は、確かな匠の技術と彼らの遊び心を感じずにはいられません。

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その昔バブル期に日本が沸いていた頃。鉄筋コンクリート等の近代ビルの大型ホテルへの建て替えを行うホテルや旅館が多かった時代。他にも、なにかと不便な昔ながらの木造建築には建て替えのチャンスなどいくらでもあったと想像できます。

そんななか歴代の当主は改築を進められても「普段は発揮できない手法を旅館建築につぎ込んだ職人に報いるためにも、いい宿を維持するのは主の務め」という理念を貫き、頑なに断り続けたそう。

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『古いものの価値は、時間がつくりだすもの。』
花屋には、決して一朝一夕にはいかない深みや趣が存在します。歴史と時間が人間の財産であることを感じずにはいられません。作り手の思いに想像を巡らせ、使い手がその記憶と心意気を紡いでいく。そうすることで建築は輝き続けるのだと教えてくれた気がします。

■誰かの思い入れのある場所

チェックインを済ませたあと、ぶらりと散歩へと出かけました。もともと薬屋だった古民家を改装して作られたカフェでコーヒーを頂くことに。お店には店主のお母さんと、地元の常連さんが。お話にまぜていただきました。

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今晩花屋に泊まることを伝えると、常連のお母さんが
「花屋さん、素敵よねえ。何度行っても、惚れ惚れしちゃう。私も大好き。毎年おばあちゃんのお誕生日になると孫たちもこっちへ帰ってきてみんなで花屋さんで食事するのが楽しみでねぇ。」

と、嬉しそうに語ってくれました。ああ、地元の人にとっても大切で愛着のある場所なのだなと感じます。それもそのはず、花屋は小さな旅館しかなかった温泉地にゆっくりくつろげる宿を作ろうと、地元の有志が共同出資して建築された宿なのです。

いつの時代もそこにあり続けてくれる花屋は、この地域を象徴する場所であり、誇らしい場所なのだろうと感じました。

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■時代の連続性を感じて

古い建物や場所は、まるで先人たちの思いをのせた『記憶の方舟』のような存在だと思います。そんな記憶の片鱗を垣間見た時に私は、”時代の連続性”を感じられるような気がするのです。

日々せわしなく過ごしていると、過去のいろんな人達の物語の積み重ねがあって今があるということすら、忘れてしまう時があります。過去との連続性を感じるからこそ、その場所にある必然性や、日本人としての美意識ってこういうことだったのかな?などと、古へと思いを巡らせられる。

花屋は、単にノスタルジーに浸るだけでなく、そんな気持ちを思い起こさせてくれる空間でした。そしてこの宿がこれから先、一体どんな未来を歩んでいくのかと考えると、思わずドキドキしてしまいます。

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どうかこれからも歴史が続いていってくれますように。切に願っています。

安心して旅に出られるようになったら・・・。床のきしむ音さえも愛おしく思えるぬくもりあふれる木の宿の中で、ゆっくり時を噛みしめたいと思います。

文・写真:こばみほ(ホテルプロデューサー)


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