月は夢を、六ペンスは現実を
本をたまらなく愛している。
本を開くとふわっと香る、空想の香り。
ページをめくると感じる、紙の暖かい手触り。
ひとつひとつの本に宿る、物語の色どり。
体中が満たされるような、包み込まれるような感覚。
忙しなく、流されるように過ごす日々の中で、置き去られている何かを、本は思い出させる。
余る程に物が増えてしまったこの世界から、
儚く輝く、小さな感情を掬い出す。
一冊の本は、私の前で何度も姿を変える。
無垢で幼い私と、
歪んだものを知り、もがき、時に諦めながら生きる私。
同じ言葉の並びがそこにあったとしても、
得体の知れない苦しさや、切なさが増す。
しかしそれに呼び起こされるように、
溢れてしまいそうな程の、甘い神聖ささえ生み出す。
本は私に、私を教えてくれる。
私は、私を離れて浮かぶ別世界で、
何かを愛することもできる。
本を読む人の顔は、美しい。