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その嵐の最初の雨粒を受けたのは、わたしではなく他の誰かでもなく麻美だった。と、真奈美は今も思っている。 生まれて初めて姉に会った時、真奈美は東京の中でも海風の吹き込んでくる土地に住んでいた。そこで生まれ育ったわけではなかった。母親に連れられて、何度か引越した記憶があった。もう会えるとも思えない子供達と郊外の公園で遊んだ様子を思い出したり、誰かわからない近所の家の風呂場を親子で借りて入ったことを思い出すときもある。父親のような何人かの大人の記憶もある。いよいよ定住したからこ
「若者の街」――と呼ばれるエリアが、東京にはありました。 20世紀の幕開けには浅草、続いて銀座。 1960年代に新宿、70年代に原宿と渋谷。中央線沿線に吉祥寺とその周辺。 世紀末から2000年代初頭に秋葉原が突如台頭し、そして―― そして、今日、「若者の街」はどこなのか。 若者がいない繁華街はありません。 これらの街が経済機能を後退させるのはまだまだ先のことでしょう。 下北沢だって、清澄だって、新大久保だって、若者がいます。 しかし、では、今、渋谷が「若者
彗星ブランド宣言1 ネットが海であるならば、そこには港が必要だ。 2 この世界そのものを何かに喩えるなら、何に喩えるのがふさわしいだろう? 少なくとも、世界よりは小さく、私たちの近くにあるもので喩えなければならない。 では、もう少し想像を限定しよう—— 書物の世界を何かに喩えるなら、何がふさわしいだろう? 本を読むことは、航海と同じだ。世界の中で日々を生活することが、航海と同じであるように。 つまり、途方もない可能性が広がってはいるが、自分が生涯に知りうるのは、可能性の全貌