二人展《空はシトリン》|巻頭エッセイ|森 大那|曲がり角へと歩いてゆくだけ
宮沢賢治は鈍い。それは彼の武器だった。
これまで宮沢賢治は、その作品群が無数の観点から読解されてきた。のみならず、遺された膨大なテクストは後世の人々の創造の源泉となり、あらゆる芸術ジャンルで派生作品が創られている。
彼に匹敵するほどのフォロワーを生み出せた作家は世界規模でも例がほぼ見当たらず、わずかにアメリカのエドガー・アラン・ポーが思い浮かぶだけだ。
しかしそれは、彼が時代のなかで先進的であろうとしたからではなかった。反対に古くあろうとしたのでもなかった。
宮沢