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ESSAY|作品エッセイ

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モーヴ街で作られるアート・モード作品を通して世界を冒険するためのエッセイをご覧ください。
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#絵画

二人展《空はシトリン》|巻頭エッセイ|森 大那|曲がり角へと歩いてゆくだけ

 宮沢賢治は鈍い。それは彼の武器だった。  これまで宮沢賢治は、その作品群が無数の観点から読解されてきた。のみならず、遺された膨大なテクストは後世の人々の創造の源泉となり、あらゆる芸術ジャンルで派生作品が創られている。  彼に匹敵するほどのフォロワーを生み出せた作家は世界規模でも例がほぼ見当たらず、わずかにアメリカのエドガー・アラン・ポーが思い浮かぶだけだ。  しかしそれは、彼が時代のなかで先進的であろうとしたからではなかった。反対に古くあろうとしたのでもなかった。  宮沢

野村直子|デザートのひと口目

 私がホイップクリームを好むのには、理由があるはずです。  その色はいつだって向こう側を見せない100%の不透明な白であること、無定型な形であることが魅力なのに必ず綺麗な曲面をしていること。  それは、秘密を決して口外しない、信頼のおける親友の印象と共通しています。  一枚の絵に味があるとしたら、どんな味であるか……子供の頃、絵画を目にするたびに想像していました。  今まさにお茶が注がれようとしている、野村直子「菫色のお客日」は、心がほどける瞬間、デザートのひと口目の予感