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液体の芸術があります。 最初のひと口を舌の上に広げると、味蕾を騒がせ、頬の横で踊り、香りの波は、先ほどまでの過去を蜃気楼にしてしまう、そんな液体です。 秋の香気が心を羽ばたかせる午後のココア、冬の冷たさが極まった夜のホットワイン、春が最初にやってきた日の珈琲…… では、夏には何を? 何を選びましょうか。 梅雨の真ん中の憂鬱をライムの果皮で吹き飛ばすジントニック? 真昼の海辺のブルーソーダ? 長い夜の始まりへ誘う強いシェリー酒? 横井まい子が手がけるメイン・
私がホイップクリームを好むのには、理由があるはずです。 その色はいつだって向こう側を見せない100%の不透明な白であること、無定型な形であることが魅力なのに必ず綺麗な曲面をしていること。 それは、秘密を決して口外しない、信頼のおける親友の印象と共通しています。 一枚の絵に味があるとしたら、どんな味であるか……子供の頃、絵画を目にするたびに想像していました。 今まさにお茶が注がれようとしている、野村直子「菫色のお客日」は、心がほどける瞬間、デザートのひと口目の予感