瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第二回 そしてバトン、ゴールデンイヤー
光栄すぎる受賞ラッシュ
『そして、バトンは渡された』が刊行された1年間は今までで一番と言っていいくらい華やかな1年となりました。
自慢みたいで恐縮ですが、『そして、バトンは渡された』では、山本周五郎賞にノミネートをしていただきました。
私、大学4年生で、現代文学のゼミで山本周五郎を研究し、「さぶ」で卒論を書いたので、そういうところが加味されているのかと思っていました。
なぜか落選したんですけど(あ、自慢になりませんでした)、私以外の候補者の方、そんなに山本周五郎さんの本読んでたんかな?
直木さんと芥川さんとなると読書量自信ないけど、山本周五郎は1年間ゼミで読みまくってんけどな。
賞ってそういう基準ちゃうんか……。
うん。違いますよね。
そして、「王様のブランチBOOK大賞」をいただきました。
ただ私、関西圏に住んでいて、「王様のブランチ」放送されていないんですよね。
その時間帯には、「せやねん!」というトミーズさんが司会されているザ関西な番組が流れているんです。
ただ、この「せやねん!」に出た芸人さんは売れるという関西では有名なジンクスがあって、ブラックマヨネーズさん、千鳥さん、かまいたちさんなどなど、「せやねん!」でコーナーをされていた芸人さんたちは今や大活躍です。
「王様のブランチ」は、本を真正面から紹介していただける、貴重な番組だと出版社の方からよく聞きます。
そんな「王様のブランチ」のBOOK大賞に選んでいただけたということは、本の世界のブラマヨさん千鳥さんの後に続くみたいなもんですよね。
そもそも、『そして、バトンは渡された』がテレビに出るなんてとわくわくしました。
続いていただいたのが「ほんま大賞」という、九州の書店員さんが創設された賞です。
なんと、驚くことに、第1回の受賞作品が『そして、バトンは渡された』なんです。
光栄すぎます。
第1回の賞をもらえるってめったにないことですよね。
副賞としていただいた素敵なパッチワーク、今でも壁に飾っています。
私だったら80年かかっても仕上げられない丁寧に作っていただいた代物。
『そして、バトンは渡された』の表紙の絵を温かくかわいくしてくださったパッチワークなのですが、眺めていると、どんな寒い時も春が訪れたみたいな気分になります。
そしてなぜか「ほんま大賞」創設者のHさん(すみません。今更イニシャルにしてるんですけど、本名ばれてます?)には手作りのお守りまでいただきました。
その時はHさんと会ったことすらなかったんですよね。
このころからHさんはじめ、書店員さんの応援してくださるパワーをひしひし感じ始めました。
本物の小説家にドキドキ
年末には「キノベス!」という紀伊國屋書店さんが実施する賞をいただきました。
その時、初めて生の作家さんにお会いしました。
村田沙耶香さんと平野啓一郎さんです。
すごいメンバー! 私だけ場違い感出まくりです。
うわー本物の小説家だ。
しかも、芥川賞とかとられているすごい方々だと控室でドキドキしました。
村田さんは斜め前にお座りだったのですが、穏やかな空気をまとった可憐な方で、「瀬尾さん、ほかに作家のお友達とかいらっしゃいますか?」と聞いてくださいましたが、さ、作家? えっと、どなたかとどこかですれ違ってないかな。その人友達ってことにしとこうかと焦っていたところ、村田さんと一緒にいた出版社の方が私もお世話になっている方で、「瀬尾さんは、家から出ないからあんまり交流とかないよね」と代弁してくださいました。
ありがとうございます。
その通りです! って。家からは出てますわ。
でも、誰とも交流してないか。
村田さんが初の作家友達になるかもと、いくつか会話をし、ここでぐっと距離を縮めようと私は授賞式まぢかに、「一緒にトイレに行きましょう!」とお声がけしたのですが(どんな戦法? 40歳超えてるやんな。怖いわ)「さっき行きました」と穏やかに断られ、距離を詰められませんでした。
残念。
授賞式での、平野さん、村田さんのご挨拶は客席でお聞きしていたのですが、作家の人ってお話も上手だし、みんな落ち着いていて、面白いだけでなくどこかきらりと知的なんですよね。
言葉の細部に才能があるなあと客席で見ておりました。(本当はそんな余裕なかったか。私、あんなこと言えるかなとひやひやしてたわ。)
私の挨拶ももちろん……。
いや、これは、思い出したくないので省きます。
賞をいただけたのはもちろん、書店さんに並べられている『そして、バトンは渡された』の姿が何よりうれしかったです。
かわいく装飾していただいたり、季節に合わせたPOPをつけてくださったり、こんなに本ってかわいがっていただけるんだと我が子が大事にされているようで、こっそり書店さんをのぞいては、一人で嬉々としていました。
そして、そんな折、「本屋大賞にノミネートされました」と敏腕編集者Sさんから電話がありました。
あー、あのノミネートというやつですね。
すでに、卒論まで書いたのに、山本周五郎賞で落選をしていた私は、選ばれるわけはないだろうと思っていました。
ところが、なんと!
『そして、バトンは渡された』が本屋大賞に選ばれたのです。
奇跡です。
書店に関する考察などの卒論も書いていないのに。
読者の方に一番近い方々が選んでくださったということが、本当にうれしくてたまりませんでした。
そして。
書店員さんのおかげで、お祭りのような日々が始まりました!
瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。