瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|番外編 トークショーの温度
本当はおしゃべりが苦手なのに
私が最大に苦手なことは、人前で話すことです。
講演のお仕事はいただいてもお断りするんですが、それは本当に話すのが下手だからなんです。
なぜかおしゃべりだと思われることが多く、「またまたー」と言われたりするのですが、実際に大失敗してるんです。
そう。忘れもしない、私の初講演が行われたのは、教員時代。
寒い冬の風が吹く季節でした。
そのころ勤務していた中学校でPTAに向け、年1回講演会をするという催しがあり、ある年講演する人物を探せなかった担当のY先生が新人教員だった私に押し付けたんです。
最後までごねたのに決行され、タイトルまで付けられました。
当日壇上に立つ私の後ろには、「瀬尾まいこ~教師として、作家として、女として~」の貼り紙が。
教師と作家は一万歩譲っていいけど、女としてってなんやねん。
女として語れること何もないわ。というか、えらい時代感じるタイトルやな。
もちろん、講演自体はぐだぐだで、「ああ、何話そう」と言いながらだったのですが、観客が保護者の方々だったので、「先生大丈夫―」「落ち着いてー」と言ってくださる中、生徒の話とかして乗り切りました。
これ、講演じゃなくて、ただの懇談会。
本当、とんでもない時間が流れてました。
そんなこんなで、講演は自信をもってお断りしております。
それでもなんか断れない流れになってしまうことあるんですよね。
「みんなと一緒にトークなら大丈夫ですよね?」「質問に答える形式ならいかがでしょう?」などと言われ、「どんなんでも嫌です」とごねている間に日が決まってしまうことも。
というわけで、「普段、お話しにならない瀬尾まいこさんのトークショー! 貴重な機会」みたいに宣伝されてしまうんですが、実は断り切れず、4、5年に1回程度どっかで、ひっそりしゃべってるんです。
全然貴重ちゃうんです。
ほんで、「普段お話しにならない瀬尾さんが」とか書かれているということは、単にできないから普段からやってないんです。
そんな私が2023年12月9日。
枚方でトークショーをする運びになりました。
2か月ほど前、会場となった書店で書店員のOさんに初めてお会いしたのですが、Oさんめっちゃ口がお上手で、5分ほどしゃべってる間に、トークショー開催の運びとなってしまったのです。
「今までいろんな文学の企画をやってきたんです」と素敵なお仕事を披露するOさん。
そのOさんが、「私、年内で退職するんです」と切ない顔されて、「瀬尾さん! 最後に何か一緒にやりましょう。えっと、年内なので12月中ですよね」と決まっていました。
あと2分あったら、Oさんから壺とか印鑑とか買ってたわ。
Oさん、魅力的な人なんですよね。
楽しくてかわいい。
見た目もおきれいだけど、押しが強くてそれがしんどさのない愉快な方で、ぐんぐん引っ張ってくださるのが心地いいんです。
読者との交流は幸せな時間
そして当日。
まず、驚いたことに映画「夜明けのすべて」に出演してくださっている上白石萌音さんから素敵なお花が!!
上白石さん、私がコンサートすると勘違いしはったんかな。
上白石さんいつも細かなお心遣いしてくださるんですよね。
ありがたいです。
少しでも長い間我が家で咲いていてもらわなきゃ。
本番前、緊張で倒れそうでしたが、直前にトイレでいつもお世話になっている書店のMさんにお会いして、「まさか来てくださるなんて」と驚いてうれしくなってすこし落ち着きました。
トークショーのタイトルは「物語の温度」。
さすがOさんセンスある。
「教師として女として」とは大違い!
トークについては、もしお越しになった方がいらっしゃったらお許しをです。
私、作家の方々が備えもっていらっしゃるような知性や光る感性がないので、きらめくような話ができないんですよね。
Oさんのおかげでいろいろおしゃべりはしましたが、客席の方々、普通のおばちゃんが出てきて、普通のおばちゃんの日常聞かされたわ。と思われたことでしょう。
すみません。
また4年くらいトークは封印しときます。
トークショーの後にサイン会があったのですが、これは楽しかったです!
四国や東京など遠方からお越しくださった方々も。(ほんま申し訳ないやらありがたいやらです。私、斎藤工のトークショーでもそんな移動距離無理。まあ、斎藤工が結婚式場で待っとくからって言うなら行ってもいいですけど)。
もちろん枚方、大好きな街になったので地元のお客さんもうれしかったです。
お話をうかがうと、本をお守りにしてくださっている方、本に救われたと言ってくださる方、新作が出たらすぐ買ってくださるという方。
そんな存在に私の本をしてくださってるなんて光栄です。
PMSの方や私と同じパニック障害の方もおられて、誰かにほんの少し光をお渡しできているのかなと思うことができ、私も幸せな心地になりました。
読者の方と短時間ではありますが、お話しできたことで励まされ、次作を書こうという意欲になりました。
トークショーには水鈴社のS社長も来てくださって、途中、Oさんに話を振られ、本について熱く語っておられました。
トークショーに不安げだった私に、「もし、時間が余ったら、ぼくがダジャレを1時間でも2時間でも言いますから」と送り出してくださったのですが、時間が余らずダジャレの披露はなしとなりました。
残念です。って、ダジャレ1時間聞くとか拷問ですよね。
時間いっぱいまでしゃべれて皆さんのためにもよかったです。
さて、翌日。
さっそくネットで瀬尾まいこと検索してみました。
「トークショー最悪やった」とか「時間返せ」とか、誰か怒ってないかとチェックしようと。
そして、「トークショー瀬尾さんとイケメン社長と、美人書店員さんと、可愛い秘書さん(娘です)がいました」というような紹介をしてくださっている方を発見! ありがとうございます。
……あれ? ちょっと待って。
私だけ、容姿についての描写がないけど、どういうことなんやろう。
私、顔見せNGで覆面して参加してたんやっけな。
もしかして、顔の見えにくい位置にお座りやったんかしら。
……いやいや、ただのおばちゃん丸出しの人やったと書きたい気持ちをぐっと抑えてくださったんですね。
ありがとうございます。
永遠に心に秘めておいてください。
トークは冷や汗ものでしたが、(ようしゃべってたやんと思われる方いらっしゃるかもですが、ちがうんです。緊張すると沈黙が怖くてしゃべるんです)本を読んでくださっている方とお会いできるのは、何よりの刺激でした。
トークの腕を磨いてまたサイン会を実施できるようにします! ではなく、読者の皆さんにいち早く作品を届けられるよう努めたいと思っております。
瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。