machia.2【MATIere-1】
俺とマチが初めて出会ったのは、俺が高校3年生、マチが高校2年生の夏休みのことだった。
受験を控えている中、勉強ばかりで息が詰まりそうだと友人に愚痴を零したら、何故か友人とその彼女と、彼女の友人と遊びに行くことになった。
友人の彼女ともその日が初対面で、人見知りの俺は「友人とちょっと釣りに行くだけでいいのに……」なんて思っていても言い出せず、結局その日を迎えてしまった。
「初めまして。小林茉知です。」
つまんないような困ったような、でも愛想笑いを貼り付けたような、なんとも形容し難い表情で自己紹介をした、友人の彼女の友人。
それがマチだった。
全員の自己紹介が終わってカラオケに行って適当に歌って、ファミレスで晩御飯を食べて解散した。
会話の内容はもうほとんど覚えていないが、マチも俺も望まず連れてこられたという共通点だけはしっかり覚えていた。
一応連絡先の交換はしたけれど、マチから来た連絡は
「今日はお忙しい中ありがとうございました。」
という業務連絡めいたメール一通のみだった。
その後、俺からメールを送ろうかと幾度も悩んだが、何を送ればいいのか分からず、カラオケで歌っていたアーティストのことで話を広げようとも考えたが、俺がそのアーティストにさほど興味がないせいで広がるような気もせず、そうこうしているうちに季節は流れ、俺は受験の本番を迎えていた。
希望の大学への合格を決めたとき、親に連絡しようと携帯のメール画面を見たら、ふとマチの名前が飛び込んできた。
俺はこの嬉しさをいち早く家族以外の誰かと共有したくて、自分が忘れ去られている可能性もあるのにその可能性すら忘れ去って、ついマチに「第一志望の大学に合格したよ!」とメールをしてしまった。
わずか1秒後、メールの着信音が鳴る。
おめでとうのメールだと期待して開いたら、エラーメッセージだった。
大学入学のタイミングで一度マチとの縁が切れた。
友人の彼女経由でマチの近況を聞いた。
初めて会った日の後、すぐに彼氏ができ、その彼氏とも別れ、また別の彼氏ができ、別れ、今はまた別の男と付き合っているらしい。
「マチは男が変わると連絡先が変わるから。女友達には律儀に変更の連絡するけれど、男友達はマチが信頼している相手にしか教えないよ。」
「マチは軽いけれど一途なんだよ。誰とでも簡単にセックスするし、告白されればよっぽど嫌な人じゃなければ割と誰とでも付き合う。でもその間は男の人と連絡取らないんだよ。」
「だからマチと連絡取れている男友達って私が知っている限り二人しかいない。その二人はマチと絶対に恋愛関係になることはないから、マチも心を許しているのだと思う。」
友人の彼女(その時には既に元カノになっていたが)はそう言っていた。
別にマチに執着心があるわけじゃない。ましてや好きな子だったわけでもない。
必然的に俺はマチのことを忘れていたし、大学生活を大いに楽しんでいた。
おそらく俺の人生最高で最初にして最後のモテ期も大学生の間だけだった。
大学卒業後に就職して数年後、友人の誘いでSNSのオフ会に参加してみた。
職場恋愛が見込めず、それでも彼女が欲しいからその足掛かりになればと軽い気持ちでの参加だった。
それがマチとの再会のきっかけだった。