見出し画像

糸紡ぎのこと ー手芸にロープは入りますか 前編ー

どうしてはじめに糸紡ぎ?

手芸と歴史のことを書くなら、最初は糸紡ぎしかない!と思っていました。ロープや糸は、人類の発明の中でも古くて重要なもののうちのひとつです。魚網や船、衣服の材料として、あるいは物をまとめて運ぶ道具として欠かせないのは現代でもかわりません。

糸を紡ぐというのは、綿のような繊維のかたまりから、繊維を少量ずつよりあわせて細く長く繋ぐこと。よる(ねじる)力を与えることで繊維同士に摩擦が起こり、引っ張ってもちぎれにくくなります。繊維をどんどん継ぎたせるため、自然界では手に入りにくい結び目のない長い糸やロープを作ることができます。

動画はリネン(亜麻)の手紡ぎの様子。その下は古代ギリシャの壺で当時の手紡ぎが描かれています。糸車が発明されるまで何千年ものあいだ人類はこのような最小限の道具で糸を作っていました。

画像2

六甲山牧場の毛刈りイベントが中止に

最初は家にある羊毛でも紡ごうかと思っていた時、とある手紡ぎのショップさんの毛刈りイベントを発見した私。見学ではなく、道具を選んで自分でヒツジの毛を刈れるとのこと。

せっかくだから刈るところからやってみるか!しかも六甲山牧場だし近いわ〜マニアックな方ともお話できるかもしれないし!とさっそく申し込み。とってもとっても楽しみにしていたのですが、昨今の事情でイベントは中止に。ぴえん。ぴえんやで。

気分が盛り下がってしまったのもあって、糸紡ぎの記事をどうしようかと思っていました。

自粛期間のYoutubeで古代の船に出会う

そしてあれよあれよという間に神戸も緊急事態宣言へ。無職パワーを発揮しガチガチに引きこもっていた私は、ゴールデンウィークの最終日にYoutubeで一つの動画と出会います。

それは船舶考古学・水中考古学の研究者、山舩晃太郎(やまふねこうたろう)先生の一般向けレクチャー。GWの自粛推進のためにご実家から公開されたもので、時代ごとに約6時間の動画×5本の大長編!これでも大学の講義をかなり短縮したものだそうです。

動画は愛犬・茶太郎くんが登場したりご家族の生活音が聞こえたりとユルめ。お仕事ではないので朝からチューハイとともにレクチャーが続きます。

【ご注意】下記リンクは最近投稿されたダイジェスト版です。サムネのワンコは先生の愛犬・茶太郎くんですが内容に関係ありません!でもかわいい。

フォトグラメトリー(デジタル画像を用いた計測)で「世界ふしぎ発見!」にも出演されていましたが、ご専門は船舶の製造史・特に大航海時代とのこと。
沈没船が水中の砂の中でうまく保存された場合、酸素に触れないため損傷が少なく、船員の生活用具なども含めその時代のコンビニがまるまる保存されているようなものだとか。

古代は当時の図像からの読み解きも多く、そんなかんたんな絵からそこまでわかるのか!というような驚きがあり、古代美術が好きな方にはおすすめです。

船といえばロープのイメージがありますが、詳しいことは知らなかった私。なんとなく帆や停泊時に使うイメージだったけど、動画を見るうちに船本体の構造体として重要だったロープの歴史にも出会うことができました。

ロープの前に…先生自体がヤバい件をお知らせしたい

大学までプロを目指し野球一筋だったという先生、イタリアの地名などここは英語でしかお勉強されてないのかな、という箇所があるほか、「ハトシェプスト」言えないし、西遊記が出てこなくて珍遊記って言っちゃうし(残念そこは漫☆画太郎先生だ)、三日月を三ヶ月って書いちゃうし「あまり日本にいないので」言うてはるけどほんまかな。とつっこみたくなる箇所がたまにあり。

研究への情熱は一目瞭然ですし、飲んだことなかったんですけど先生おすすめの男梅サワー(どこにでも売ってるやつ)を買ってみたところおいしかったのでOKです!

ともかく。研究者の経歴としては変化球だと思いますが、私はJリーグチームのファンなのでプロをめざす育成年代の若い人が子供の頃からどれだけ努力されているかは少しは知っているつもりです。そこからまったく別の分野でアメリカで博士号をとって、さらに注目される研究者になるのは本当にすごいことだと思っています。

驚くべき古代船の工法

さてやっと本題きた!縄ですよ縄。

例えば古代エジプトやギリシャでは、外板をロープで縫うようにして船の形に組み立てていました。ここでもうびっくりです。板と板をロープで縫って何十メートルもある外洋船が作れるなんて信じられない話です。加えて、船の周囲をぐるりとロープで編み締めたり船頭と船尾の内側をロープで繋いだりして強度を増していました。※ほぞ組みも併用

古代の造船とは外板を強固に組み合わせた「殻」を先に作る「シェル・ファースト」であり、現代のようにしっかりした骨組みを作ってから外板をとりつける「スケルトン・ファースト」は中世以降の工法だということも学びました。

ロープさんかっこいい!

意味不明な感銘におそわれた私は少し調べてみることにしました。動画内ではロープの素材に言及はありませんでしたが、メトロポリタン美術館のサイトで紀元前のロープの素材を調べてみると、リネンやヤシ繊維、アシ(葦)などが現存しています。下の画像は紀元前のリネン製ロープ(ca. 2030–1640 B.C. / エジプト / メトロポリタン美術館蔵)。

画像1

拡大してみました。細い一本一本も撚った糸でできた精巧なロープです。もちろんすべて人の手で作られたもので、現代からするととてつもない労力が必要なことがわかります。すごいなあ古代の人。

スクリーンショット 2020-05-27 0.06.41

suimi、縄作ります

材料の繊維がないため最初の単糸の糸紡ぎはできませんが、紐を作る原理は毛糸と同じ。麻ひもをより合わせて太いロープ作ることにきめました。その様子は後半で。

【タイトル画像】
糸を紡ぐ女性の描かれた壷 / 490BC-470BC / アッティカ / 大英博物館蔵 /
Photo by Marie-Lan Nguyen 
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2596494