宇宙
何にもない昼下がり、俺は当てもなく河川敷を自転車で走っていた。今日の晩は何を食べようか。明日は何をしようか。そんなありきたりなことをぼーっと考えながら走っていると、ちょうど11時あたりの方向になにかまばゆい光を見つけた。何だあれは。だれがあんな光たいてるんだ。面白そうなので近づいてみた。
すると光の中から出てきたのは、灰色の肌に針金のように細く小さい身体、その身体とは不釣り合いに肥大した頭部ととても大きな黒目の生物。いわゆる「リトルグレイ」という奴だった。
とすると、光を放っているこの物体は・・・? 目を凝らしてみると、これまたいわゆる「円盤型UFO」そのものが丁寧に駐車されていた。もとい駐円盤か。それにしても未知との遭遇って感じだ。なんかワクワクするな。
「オイ、ニンゲン。」
「うわっ。」
びっくりした。あの宇宙人話しかけてきた。まあそりゃそうか。目の前に人間いたらひとまず話しかけるわな。なんせ第一地球人発見したんだもんな。てかそもそも宇宙人って日本語話せるのか。もともと言語が似通っているのか、このために必死こいて勉強したのか。どっちなんだろう。というか、なぜ何も話しかけてこない。呼びかけといてなんなんだ。
「・・・なんだよ。」
少しぶっきらぼうな言い方になってしまったが、これでさすがになんかアクション起こしてくるだろう。
「ワレワレハウチュウジンダ。」
おお。まじで言うんだそれ。なんか感動すら覚えるぞ。あれって扇風機の前に座るとなぜか言っちゃう言葉No.1だよな。
「・・・ああ。そうか。」
「オマエノナマエヲオシエロ。」
えぇ、なんで。見ず知らずの宇宙人においそれと名前教えちゃうほど舞い上がってないぞ。そもそも知ったところで何になるんだよ。
「・・・なんで俺の名前知りたいんだよ。」
「ソレハ・・・オシエラレナイ。」
えぇ、ごまかした。ごまかすってことはなにか怪しいことに使うんじゃないか。具体的に何かって言われると分からないけど。
「・・・じゃあ、教えられないな。」
「ソコヲナントカ。」
えぇ、食い下がってきた。てか「そこをなんとか」って表現知ってるんだ。結構日本語うまいな。必死に勉強したのかな。けなげだ。この宇宙人、けなげ。
「・・・うーん、どうしようかな。」
「ゴショウデスカラ。」
結構しつこいぞ。てかこいつやっぱり日本語がうまい。普通に母語が日本語の可能性が高いな。なんだ。なんだってなんだ。
「・・・分かったよ。でも先にお前の名前を聞いて、俺の名前を聞いてどうするのか聞いてから。話はそれからだ。」
「ソレハチョット。」
なんでだよ。
「・・・なんでだよ。なんでお前だけ情報手に入れて得しようとしてんだよ。フェアじゃないだろ。というか俺の名前知ってどうするんだよ。なにかに使うのか? 急に現れた宇宙人に個人情報取られてはいさよならってそれはないだろ。情報手に入れたいなら自分の情報も出すべきだろ。ずるいだろ。」
「・・・・・・。」
やばい、黙っちゃった。ちょっと言い過ぎたか。まあただで個人情報は教えたくないので別に後悔はしてないけど。
「・・・・・・チ・・・タイ・・・。」
「えっ、なんて?」
「・・・・・・トモダチニ、ナリタイ・・・。」
「・・・えっ。」
「トモダチニナリタイノ・・・。」
びっくりした。友達になりたかったのか。可愛い奴だな。
「・・・そうか。それで俺の名前を知りたがったのか。でも、なんでお前の名前は教えてくれないんだ?」
「ワレワレノホシ、コタイニナマエツケルシュウカンガナイ。」
「そうか。理由を聞いても言わなかったのは何でだ?」
「・・・ハズカシカッタカラ。」
なんだ、この宇宙人。ますます可愛い奴だ。
「そうか。まあ俺の名前は教えてやるよ。おれは鈴木速人。はやとって呼んでくれたらいい。」
「・・・トモダチニナッテクレルノカ?」
目をキラキラさせて見てくる。可愛い奴だ。
「おう。それにお前に名前つけてやるよ。いつまでもお前呼びじゃあれだしな。そうだな・・・。リトルグレイからとって、『リト』なんてどうだ?」
「リト。イイナマエダ。キニイッタヨ。アリガトウ。」
「じゃあ、リト。これから友達としてよろしくな。」
「ハヤト、ヨロシク。」
友達となったしるしに握手を交わした。
「よし、ひとまず飯でも食いに行くか? 近くにうまいカレー屋があるんだ。」
「カレー、ハジメテタベル。タノシミダ。」
目がらんらんと輝いている。可愛い奴。
「じゃあ、行くか。あ、でも円盤どうするか・・・。ここに置いてちゃちょっとした騒ぎになるしな。」
「ダイジョウブ。ステルスキノウガアルカラ。」
ハイテクだ。
「なら大丈夫か。あ、リトお前自転車乗れるか?」
「レンシュウシタケドテンデダメダッタ。」
「そうか・・・。」