【論文】VERY HAPPY PEOPLE の翻訳(要約)と所感
はじめに
ウェルビーイング(Well-being) について調べている最中に以下動画を視聴し、動画内で VERY HAPPY PEOPLE という論文が紹介されました。
(フリーアクセス可能で一般公開されています)
幸福度の高い組織をつくるには「1日の終え方」「雑談」「信頼」を大切にしよう!これからの企業に必要な「Well-being(ウェルビーイング)」とは? - YouTube
結論、「VeryHappyPeople には 例外なく良い友達がいる 」とのことらしいです。
良い友達がいることが人生の幸福度向上に寄与する、という内容は直感的に何となく理解できますが、なぜそれが一番の要因となるのか気になり一読しました。
その内容を備忘録も兼ねて記録しておきます。
ウェルビーイング(Well-being) とは
厚労省では以下のように定義付けています。
私は Well-being ⇨ 持続的な幸福(度) と勝手に頭の中で変換しています
Authorが伝えたいこと(結論)
「良好な人間関係を築くこと」は「幸福」であるための必要条件である
翻訳
留意点
冗長な箇所は切り落としているため一部要約しています
一部 DeepL を使用しています
Social Relationship =「社会関係」を便宜上「人間関係」と訳しています
以下論文内容です。
Abstract (概要)
222名の大学生(実験者)を対象に、いくつかの評価フィルターを用いて幸福度でスクリーニング(選別)しました。
選別した結果において、常にVeryHappyPeopleと判定される上位10%と、それ以外の平均的な人々、不幸な人々を比較しました。
VeryHappyPeopleはそうでない人々と比較して、とても社交的で、恋愛感情を持ち、良好な人間関係を築いていました。
そして彼らはより外向的で協調性もあり、神経質ではなく、MMPI(ミネソタ多面的人格目録性格検査)を用いた精神病理学の幾つかの尺度においても低いスコアでした。(低い方が良い)
また、VeryHappyPeopleは特別運動量が多かったり、宗教活動に参加したり、ポジティブなイベントへ積極的に参加していたわけではありませんでした。
上記のような幸福度を測るための変数で優位性が見られなかった一方で、
良好な人間関係が必須ということがわかりました。
VeryHappyPeopleはポジティブな感情を感じつつも、時折ネガティブな反応も示しました。
これは彼らが人生の出来事において適切に反応する感情システムを持っていることを示唆します。
心理学の文献には、不安障害や気分障害を抱える不幸な人々に関する調査記録が多く存在します。
一方で幸福な人に関する調査は滅多になく、VeryHappyPeopleに関する調査は存在しません。
この不均衡は臨床心理学が歴史的に病理学に重点を置いていたことに起因します。
私たちは高い幸福度を持った人々の行動と人格に関する相関について、
最初の研究をここに報告します。
本研究で私たちは、高い幸福度に影響していると思われる要因について調査しました。
その要因とは、人間関係・性格・精神病理学・Well-beingと相関があると思われる変数(e.g. 宗教や運動)です。
これらの要因について、幸福な人々・平均的な人々・不幸な人々を比較します。
ある変数が幸福度に寄与するならば、その変数を持つすべての人々が幸せでなければいけません。(e.g. Xであれば常に幸せ)
そのため、逆に不幸な人はその変数を持っていないことになります。
ある変数が幸福のために必要なのであれば、すべての幸福な人がその変数を持つ必要があリます。(e.g. 幸せならばX)
つまり、幸福に対して必要十分条件になる「鍵」が存在するかどうかを調べました。
この研究の第三の目的は最も幸せな人々の気分や感情を調査することです。
彼らは高揚感を感じているのか? または適度なポジティブな感情を感じているのか? そして時には不快な思いをしているのでしょうか?
研究の目的
幸福度に影響している要因は何か?
幸福になるための必要十分な「鍵」は存在するのか?
幸せな人々の気分や感情はどのような状態か?
Method
この研究のサンプルはイリノイ大学の222名の大学生を対象とした1学期の集中研究から得られたものです。
彼らを対象に幾つかのフィルターを組み合わせて、幸福度が高い人たちを選別しました。
まず、数ヶ月おきに収集する報告(自己 + 他者)と51日間の日報報告で生活満足度と感情に関するデータを収集し、VeryHappyPeople・平均的な人々・不幸な人々の3種類に分類しました。
具体的な分類方法は以下の通りです。
人生の満足度調査 (期間中3回)
・スコアは5 ~ 35で解答、5=極度の不満 35 = 極度の満足
・後述するResultに結果(平均値)を記載自己評価による感情調査 (期間中2回)
・8つのポジティブな感情と16個のネガティブな感情を感じた頻度を測定
・ポジティブな感情の平均頻度とネガティブな感情の平均頻度の差を計算他者評価による感情調査 (期間中2回)
・評価基準は2と同等 (8ポジティブ、16ネガティブ)
・5人の評価者により測定し平均頻度の差を計算毎日の感情調査
・51日間毎日自身の感情を報告
・ポジティブな感情の平均頻度とネガティブな感情の平均頻度の差を計算
上記4つの尺度を標準化し各個人のZ値を加算。
スコアの分布に基づいて、上位10%、下位10%を選び、残りのグループ(中間層)を均等に3グループに分類しました。(計5グループ)
次に、3つの別の尺度を採用した判別関数を用いて、上位・中位・下位グループの割り当てを実施しました。 (先に求めた5グループとは別物)
この3つの尺度を用いて分類した3グループが、先に実施した4つの尺度で分類したグループと同じ内容になるかを判定し、異なるグループに属した人を除外しました。
つまり2段階のフィルタリングを行なっています。
追加で実施した分類に採用している3つの尺度は以下の通りです。
記憶に残っている出来事
・過去一年間 と 生涯を通してのポジティブな出来事を想起してもらう
・過去一年間 と 生涯を通してのネガティブな出来事を想起してもらう
・スコアをポジティブな出来事とネガティブな出来事の差で計算自分自身に関する選択肢(性格など)を回答
・ 非感情的ポジティブ表現よりも幸福感情的ポジティブ表現を選ぶ確率
・ 非感情的ネガティブ表現よりも不幸感情的ネガティブ表現を選ぶ確率
・スコアを上記2要素の差で計算自殺願望
・希死念慮と自殺行動を0~5の範囲で面接を通して測定
・0 = 自殺を一度も考えたことがない、 5 = 自殺未遂の経験あり
判別関数は96%の確率で VeryHappyPeople のグループに入るかどうかを正確に予測し、最初のグループ分けの妥当性が高いことを示しました。
以上のフィルタリングを通して、以下ようにのグループ分けを行いそれぞれを比較検討しました。
VeryHappyPeopleグループ10% (n=22)
最も不幸を感じている人々のグループ10% (n=24)
中央の27%を形成する平均的な人々のグループ27% (n=60)
Result
VeryHappyPeopleグループは人生満足度が約30点(5~35点の範囲)、
自殺を考えたことはなく、人生において悪い出来事よりも良い出来事を多く思い出すことができ、日常においてもネガティブ感情よりポジティブ感情を多く報告していました。
(それはそうだろとツッコミが聞こえてきます)
一方で、最も不幸を感じているグループは友人や家族から不満(不足して)そうと評価されており、自分自身でも同様の評価をしました。
加えて日常的にネガティブな感情とポジティブな感情をほぼ同量報告していました。
以下Table1に、前述した7つの幸福の尺度に関する3グループの平均値と標準偏差を示します。
VeryHappyPeopleグループは平均グループや最も不幸を感じているグループとは大きく異なり、良好な人間関係を構築していました。
彼らは1人で過ごす時間が最も短く、人付き合いに費やす時間が最も長かったのです。
また、自己評価でも他者評価でも良好な人間関係について最も高いスコアを得ていました。
以下、Table2に3グループの人間関係における変数の平均値を示します。
人間関係と幸福について統計的関係が見出せた一方で、
「それぞれのスコアが高い = とても幸せ」 と言い切るには不十分でした。
というのも、最も不幸なグループの中でも家族関係・対人関係・恋愛関係に満足し、頻繁に人付き合いをしていると答えた人もいたからです。
不幸な人々もそれぞれの尺度において高いスコアを記録していました。
しかし、良好な人間関係は高い幸福を得るための必要条件かもしれません。
VeryHappyPeopleグループの全員が人間関係の質が高いと報告していました。
また、3グループ間には性格や精神病理学上の違いもありました。
MMPI(ミネソタ多面的人格目録性格検査)においてVeryHappyPeopleは得点が最も低い傾向にありました。(低い方が良い)
彼らはMMPI尺度が臨床対象(T65以上)に入ることはありませんでしたが、
最も不幸なグループではほぼ半数が臨床対象となりました。
ここで再度、必要であるが十分でないパターンが見られました。
VeryHappyPeopleは常に正常なスコアを記録していましたが、
最も不幸なグループもしばしば正常範囲内のスコアを記録していました。
特徴的な点としてVeryHappyPeopleは他の2つのグループに比べてより外向的で、神経症スコアが低く、協調性スコアが高いことがわかりました。
一方で、以下の要素では平均的なグループと有意な差はありませんでした。
他の学生より自分はお金を持っているかどうか
ポジティブな出来事とネガティブな出来事を体験した回数(客観)
学校の成績
身体的な魅力度(客観)
タバコとアルコールの使用頻度
睡眠、テレビ鑑賞、運動、宗教活動
また、VeryHappyPeopleは常に幸せな状態だったわけではなく、時折ネガティブ or ニュートラルな感情を報告しました。(約半日の割合で)
Discussion
本研究はサンプルとその相関が限定的であるため、より広い範囲かつ縦断的に研究を行うことが望ましです。
しかし、私たちは約2ヶ月に渡り多くの変数を毎日測定し、確度の高い幸福の尺度を用いて多くの論理的問題を調査することができました。
非常に幸福な人々に焦点を当てた研究報告はこれが初出です。
よって、サンプルは大学生に限定されていますが研究結果は大変興味深いものだと考えます。
研究結果はVeryHappyPeopleは豊かで満足のいく人間関係を築いており、
平均グループと比較して1人で過ごす時間が少ないことを示しました。
一方で、不幸な人々は平均グループと比較して人間関係のスコアが著しく悪かったのです。
良い人間関係は、食べ物や体温調節と同様に人間にとって普遍的に重要である要素ではないかと推測します。
良い人間関係が幸福を生み出すのか、幸福が良い人間関係を生み出すのか、
はたまたその両者が第3の変数によって引き起こされるのかは不明です。
しかし、良好な人間関係(と外向性)が高い幸福度の必要条件ではあるが十分条件ではないこと、つまり良好な人間関係が幸福を保障するわけではないが、それ無しでは幸福になりえないというのは興味深い内容です。
(↓ こういうイメージ)
つまり、高い幸福度を自動的に生み出す「鍵」は存在しないのです。
それよりも高い幸福度を生み出すためにはいくつかの前提条件が必要であると考えます。
VeryHappyPeopleが多くの時間を幸せに感じている一方で、時折ネガティブな感情を感じることができるのは間違いなく人間の機能的な側面です。
同様に彼らは過度な多幸感や恍惚感を感じることは殆どありません。
これらの研究結果はサンプルが大学生に限定されていますが、
私たちは成人した大規模な標本に基づく多国籍調査の未発表分析において、
高い幸福度を得るためには良好な人間関係が必須ということを再現しました。
最後に
以下の5段階の研究が過去40年にわたって開発されてきました。
(この論文は2001年に発表)
極端にネガティブ状態にある人達(e.g. うつ病など)を集める
彼らの性格とライフスタイルを測定する
彼らを縦断的に追跡し、Well-beingの増減を調査する
Well-beingを高めるために、行動的 or 薬学的に介入する
介入(4)の結果を評価する
私たちはまさにこの逆の戦略が、人類の幸福の要因と構成要素を明らかにする可能性があることを示唆し、その最初の試みとして研究結果をここに提示します。
論文内容はここまで
所感
Discussionの項でも少し言及されていますが、まずサンプル数(n=222)がそこまで多くない、かつ対象となる標本(母集団の部分集合)が大学生に限定されているため信憑性の度合いは個人の判断に委ねられます。
冒頭に記載した動画では「VeryHappyPeople には 例外なく良い友達がいる 」と言及していましたが、それは良好な人間関係(社会関係)のことだったようです。
学生はコミュニティや人間関係の繋がりにおいて友人の割合が大きく占める一方で、社会人の場合は同期や仕事仲間・チーム・上司・部下、異性のパートナーとの関係性も相当してくるのかと考えます。
また、組織論的な話にそれますが心理的安全性を高めることも人間関係という観点で日々の幸福度に大きく影響するでしょう。
「良好な人間関係を築くにはどうすればよいのか?」と一歩踏み込む必要がありそうですが、これを受けて私も良好な人間関係を意識してみようと思いました。
以上です。
皆さんはどんな時にWell-beingを実感しますか?