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『藝人春秋2』の書評3 ★『藝人春秋2』から広がるナイアガラの星座。 Byスージー鈴木


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 2021年2月9日、3月9日と2ヶ月連続して発売となる『藝人春秋2』上下巻の文庫化が『藝人春秋2』と『藝人春秋3』です。

 2017年発売の単行本版『藝人春秋2』上下巻には多くの書評が寄せられましたが、そのなかから順次紹介して行きたいと思います。

 3回目は今や『メルマ旬報』の執筆陣となり、次々と単行本を刊行しまくる音楽評論家のスージー鈴木さんです。

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水道橋博士『藝人春秋2』から広がるナイアガラの星座。

          By.スージー鈴木 
         2017年12月3日「週刊スージー」より


 水道橋博士『藝人春秋2』上下巻が、爆発的に面白い。
 今や、博士が編集長の「水道橋博士のメルマ旬報」で書かせてもらっているので、博士の著作を賞賛する文章は、少しばかり書きにくいのだが。
 面白いものは面白いのだからしょうがない。
 この分厚い2冊を、たった2日間で読み切った。

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一作目について

  同業者の若者に勧めたい本~水道橋博士『藝人春秋』

 (某媒体に寄稿したものの再利用です。ここでいう「同業者」は広い意味で捉えていただいて結構です)

「日本語というものに、もっとデリケートになってみよう」ということなのです。

 この文章を読まれている方には、『週刊文春』という雑誌を読んだことのある方は少ないかもしれません。
 また、読んだ経験のある方も、『週刊朝日』『週刊新潮』あたりと同列の「一般週刊誌」として、この雑誌を分類していると思います。

 でも、私にとっての『週刊文春』は「サブカル系ライター業界、最高峰の舞台」。
 尊敬しつづけて、愛しつづけてきた小林信彦や近田春夫が書いている雑誌。そして、みうらじゅんや宮藤官九郎が、彼らに挑んでいる雑誌。
 もうちょっとあからさまに言えば、この雑誌で連載を持つことが私の人生3つの夢の1つなのです(あとの2つは、プロ野球の始球式と、紅白歌合戦の審査員)。

 その『週刊文春』で、実はいま一種の革命が起きています。
 そうです。水道橋博士『藝人春秋』の連載開始。
 内容については細かく触れませんが、『藝人春秋』を立ち読みして、脳髄の奥のほうがガクガクするような感覚に襲われない人は、その方面のセンスがない人と言い切れます。

 で、革命とはどういうことかというと、水道橋博士の登場によって、小林信彦や近田春夫が一気に古ぼけて見えてきたということなのです。
 さらには、彼らを愛しつづけてきた私自身の感覚も、いよいよ古ぼけてきたことを認めなければいけないというショックも付随します。

さて、水道橋博士による文章のスゴさの本質は、わかりやすく、リズミカルで、それでいて笑わせる日本語力です。
 その背景に、尋常じゃない読書量からくる語彙の多様さ、それを配置・整列する文章力、そして(たぶん)徹底的な校正(をしているはず)。

 私たちは、それこそマシンのように日本語を量産する仕事をしています。猛烈なスピードで読み、書き、そして話す。ちょっと下品ですが、日本語を垂れ流しているという感覚すらあります。
 そこでの大量な日本語のすみずみまでに、水道橋博士のような日本語への強烈なこだわりが必要とは思いません。

 思わないのだけれど、脳髄の奥の、そのそばに『藝人春秋』のような文章に対するリスペクトをインストールしておくべきではないか。
 そして、少しだけ日本語に対してデリケートになってみる。
 そういう意識の有無が長い目で見ると大きな差になると思うのです。

 現在の『週刊文春』連載の話ばかりしましたが、その連載のもととなっているのがこの本です。どうしても、その方面への興味が湧かない方は、せめて最後の「稲川淳二」の項だけでも立ち読みしてみてください。

 サブカル系ライターの方々の日本語力で言えば、リリー・フランキーや松尾スズキ、西原理恵子のこの文章、そして最近一部で話題の、この本を書いたライターの日本語も非常に優秀だと思っているのですが、スペースが尽きました。
 また機会があれば。

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 前作『藝人春秋』については、まだ「メルマ旬報」に参加する前ではあったが、上のリンクで書いたように激賞させていただき、感動のあまり、身の回りの若い人たちに自腹で配布までしたものだ。
 そして今回の2冊。
 2冊の「背骨」となるのは、下巻の「橋下徹と黒幕」の項、それも177ページに極まるのだが、その対極ともいえる、サブカル系の人物をネタにした小品もまた読ませる。
 上巻の第6章、大滝詠一とマキタスポーツの章が特に気に入った。
 今回は、その第6章の直後にある、上巻のエピローグ「はっぴいえんど」を読んで奮えたという話を書く。
 ここで博士が紹介しているツイートの「実物」は、この2つだ。

RT@makitasports(マキタスポーツ・来年1月「オトネタ」復活)
これは自慢w RT @hitoshione: わー!RT @makitasports: 天久さん作演出シティーボーイズの舞台裏で大瀧詠一さんと会う。「あなたには期待してます」と言われた。まず知られていたことにビックリ #makitasports #makita1422
3:29 - 2011年9月17日


RT@makitasports(マキタスポーツ・来年1月「オトネタ」復活)
これは自慢w RT @hitoshione: わー!RT @makitasports: 天久さん作演出シティーボーイズの舞台裏で大瀧詠一さんと会う。「あなたには期待してます」と言われた。まず知られていたことにビックリ #makitasports #makita1422 2011年9月18日


RT @s_hakase(水道橋博士)
@makitasports マキタよ。俺は20代の時に大滝詠一さんの自宅に行ったら「君たちの大阪のラジオを聞いてます」と言われたことがあるんだよ。これは自慢w。というより大滝詠一さん凄いだろ。
23:38 - 2011年9月18日


 その2つのツイートから言えることは、博士もマキタスポーツ氏も、ごくごく早い時期に大滝詠一に注目されたということと、博士も言うように「大滝詠一(のアンテナ)が凄い」ということである。

 そして、これも正直「自慢」なのだが、私も、生・大滝詠一と会い、一言言われているのである。今からちょうど20年前=1997年の春のことだった。

・そのときに書いた「潜入記」  
 http://suzie.boy.jp/fussa45.html

・そのときの音源
 https://www.youtube.com/watch?v=ODLfDWPBxns

 私が言われた一言は、私がサインを求めたときの、この言葉だ──。
「スージーくんとは、これから一緒に仕事をするかもしれないから、サインはしません」。

 結局、それから再びお会いする機会はなく、そのまま大滝詠一は永遠の「2013年ナイアガラの旅」に出てしまったのだが。

 それから博士のお誘いで「メルマ旬報」に参加させていただき、その流れでマキタスポーツ氏とも出会い、そして、マキタ氏とテレビ番組BS12 『ザ・カセットテープ・ミュージック』に出演し、そして、その番組テーマ曲が、大滝詠一《君は天然色》なのである。

 大滝詠一と一緒に仕事をすることは叶わなかったが、出会いから20回の春と秋を越えて、いま自分がナイアガラの星座に導かれ、突き動かされている気がする。
 博士やマキタ氏ほどではないが、私も地味に星を継いでいく。

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大滝詠一さんの話は『藝人春秋2』の最後の章です。
福生にある大滝詠一邸を訪ねた話を書いています。
そしてエピローグはハッピーエンドに繋がっていきます。

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