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こんにちはチャーハン


LINEの通知音で目が覚めた。

『ゆで卵を半熟にするのに失敗してしまい、病み期を迎えたのでしばらく店を閉めます。ごめんネ』

バイト先の店長からだった。

わたしのバイト先は"こんにちは専門店"という店だ。

お客さんが支払う金額に応じて、レジでさまざまな種類の「こんにちは」を言ってあげるだけのカンタンなお仕事です☆

時給430円だが、社割があるのとまかない付きだったのが決め手となった。

どうやら卵の件で相当落ち込んでいるらしい店長のインスタには、真っ黒な画像が投稿されていた。
今度バイト仲間とお見舞いに行く予定だ。



そんなわけで急にバイトがなくなり暇になったので、建物と建物の隙間に挟まる遊びをしていたらすぐそばの道に棒切れが落ちていることに気づいた。

ずいぶんと細い棒切れだ。
その棒切れから不思議と「強いこだわり」を感じて、わたしは吸い寄せられるように道に出た。

棒切れを拾い上げる。

「なんだ、ただの木の棒か」

呟くと、木の棒から「あ?」というイラついているような声が聞こえた。

びっくりして木の棒を放ると、カラン、という軽い音を立ててアスファルトに落ちた。

次の瞬間、落ちた木の棒は見覚えのある人間に変身していた。

ガラクトロン 井坂だ。

なにやら腕を押さえながら、しんどそうにしている。

「ごめん、井坂やったん!さっきまで棒切れやったのに!」

「バイクで事故って倒れてたわ。手当てしてくれ」

話を聞くと、井坂はバイクで転けて気を失い、気づけば棒切れになっていたらしい。

そのまま負傷した井坂を彼の家まで送り、手当てすることに。
ちなみに運びづらいので彼には家に着くまで再び棒切れになってもらった。


井坂は他の同期たちとルームシェアをしているので、結構広いところに住んでいる。

他の二人の名前を言うと口から変な汁が出て発熱しそうなので控えておくが、変なやつその1と変なやつその3と暮らしている。井坂は変なやつその2だ。

その1もその3も家にいたが、なんとなく無視した。

「水分、メシ作ってや〜」

手当てが終わった井坂は、怪我しているのをいいことにメシをねだってきた。

仕方ない。ここは、得意のチャーハンを振る舞ってやろうじゃないか。
食材を買ってきて、腕によりをかけチャーハンを調理した。

「はい、お待ちどおさま!」

井坂が喜ぶかなと思い、チャーハンの上にウォレットチェーンをトッピングしてみたが怪訝な顔をされてしまった。

ウォレットチェーンのトッピングに対するわたしの思いを3時間前後話し、ぜひ食べてほしい旨を伝えると納得し食べてくれた。
ただ、少し硬かったかもしれない。食べ終わる頃には井坂の口は血だらけだった。次はもっと茹でなきゃね。

「まあまあやな。あ、買い物いくらだった?払うわ」

井坂がチャーハンの材料費を払ってくれるとのことだったので、レシートを見て金額を伝えた。

「えっとねー、600円くらいやわ」

「おっけー。はい、ちょうど!」

500円玉1枚に100円玉1枚。手のひらに置かれた小銭を見て、わたしは大声で叫んだ。



「こんにちはあああああああああああ!!!!!!!」




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