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完徹!盛り上がりきりまショー

また今月も、中崎歌謡祭の日がやってきた。

まさか知らない人はいないと思うが、一応説明しておこう。中崎歌謡祭と言うのは、大阪の中崎町(梅田の右らへんにあるゾ)が大好きな同期四人が月に一回中崎町周辺に集い、深夜から朝までひたすらカラオケを楽しむイベントのことである。

その中崎歌謡祭が、今月も、やってきたのだ。
メンバーの四人全員が、その日が近づくにつれ全身の細胞が活性化し、瞳孔がかっ開き、力が漲っていった。
その中でもダントツで最強のコンディションを作り当日を迎えたのは、他でもないやたかJRだった。

今日のお部屋は206号室です♪
そのまま入室してね♪

スマホアプリの画面に、本日の宴会場となる部屋番号が表示された。
部屋番号を確認した私・水分スイと、ぶどうがり ホセマイアミ(※パーティーはほどほどに 参照)、アイアンパラドックス 亀沢、そしてやたかJRのカラオケ四天王は、あるカラオケの入り口にいた。

マイクを持って歌う三十二分音符のキャラクターがネオンで縁取られた看板が、とても眩しい。あと、三十二分音符というのが絶妙に気持ち悪い。

「お前ら、準備はいいな?」

中崎歌謡祭のMCとも言えるやたかJRが神妙な面持ちでみんなに問いかけた。

コクリと頷く私たち。待つのはやたかJRの合図のみ。

「よし、行くぞ…。中崎歌謡祭、スタート!!!」

やたかJRの開幕宣言と共に、私たち四人は一斉にカラオケに入店し206号室へダッシュした。

ドリンクバーで人数分のドリンクを用意する者、採点機能と曲をどんどん入れていく者、全員のアウターをハンガーに掛ける者、みんなの分までトイレをする者…
そう。私たちは、一分一秒も無駄にしたくないのだ。少しでも長い時間カラオケをしていたいのだ。

デンモク担当のやたかJRが入れたのは、「完徹!盛り上がりきりまショー」という"朝まで完全徹夜で盛り上がりきれたら勝ち"な採点ゲームだ。

各々の仕事を爆速で終え、全員が部屋に集う。
私も急いで股間を拭いて部屋に戻った。

「お前ら盛り上がってるかーーー!!!」

「「「イェーーーイ!!!!!」」」

「今日も朝まで全力でカラオケできるかーーー!!!」

「「「もちろーーーん!!!!!」」」

「お前らの魂を歌に乗せてくれーーー!!!」

「「「ウオオオオオーーーーー!!!!!」」」

毎度恒例の、やたかJRと私たち三人のコール&レスポンスだ。
206号室の熱量は部屋の壁を突き抜け、更には床や天井をも突き抜け、いつのまにかカラオケの店内にいる人間がみんな206号室のすぐ外に集まってきた。

ドアのすりガラスの外には、人、人、人。
私がヒルクライムを歌っていても、ホセがBONNIE PINKを歌っていても、亀沢が花*花を歌っていても。
カラオケ内どころか、気づけば中崎町じゅうの人間が206号室の前に集合し、ひしめき合っていた。

「よっしゃ、ほな俺が一発かましたるわな!」

肩をぶん回しながらやたかJRがマイクを持つ。

「亀沢、前口上頼むわ」

もう一本のマイクを渡されたアイアンパラドックス亀沢は、曲の前奏が流れ始めたと同時に流暢に語り出す。

「盛り上げ続けて26年  今宵も中崎沸かせます
歌で繋がり巡り逢い  奏でる音の環状線
ガラスの靴を忘れたら  JR忘れ物センターへ
あなたが涙を流す時  いつでもホームで待ってます
それでは歌っていただきましょう。やたかJRで、シンデレラボーイ。」

「頭じゃわかっていても〜♪心が追いつかない♪」

なんとも驚きの光景だった。やたかJRがシンデレラボーイのAメロを歌い出した途端、部屋の前に集まっていた群衆が四方八方に逃げていってしまったのだ。
しかし、その理由が私には分かる。オブラートに包み、言葉を選んで言えば、彼はクソ音痴だからだ。

「シンデレラボーイ 0時を回って♪腕の中であたしを泣かせないで♪」

ドアの外に人っこ一人いなくなったことに全く気づかないまま、サビを熱唱するやたかJR。
突如曲が止まり、モニターに「盛り上がり失敗!ドンマイ!」という文字が表示された。

「俺としたことが…そうか…中崎歌謡祭を盛り上げることができなかったか…。悔しい。また来月、リベンジさせてくれ。」

気づけば朝になっていた。反省で顔を真っ青にしたやたかJRは、そのまま始発の地下鉄に乗って帰って行ってしまった。

その様子を見ていたカラオケの店員が呟いた。

「帰りの電車、JRじゃないんだ。」



いやそんなことより、最後のセリフ言うのカラオケの店員なんや〜

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