キンパお兄さん
みなさんお馴染み、水分スイの生春巻きを子どもに見せびらかすバイト。
そのバイトで公園に行った際、ある小学生の女の子にやたらと声をかけられるバイト仲間がいた。
「キンパお兄さーん!キンパお兄さーん!!」
女の子がそう呼ぶ先に立っていたのは、41期の先輩、オノマトペ まおさんである。
ちこ兄(うるさいステーキ丼 参照)と同期で、みんなで同じ生春巻きのバイトをしている。
キンパお兄さんと呼ばれたまおさんは、苦笑いをしながら女の子に向かってそのへんに落ちていたアツアツの鉄球を投げつけた。
野球をしていたからだろうか。まおさんは丸いものがあったらすぐ投げる習性があるようだ。
キンパお兄さんと呼ばれたいきさつを簡単に説明しよう。
私が子どもに生春巻きを見せすぎて生春巻きが腐ってきたタイミングで女の子に話しかけられ、「生春巻き見たいの?じゃああの金髪のお兄さんに見せてもらってね」とまおさんのところへ行くよう促したところ、キンパツをキンパ(韓国の巻き寿司みたいなやつ)と間違えたのか女の子がそう呼び出したのだ。
あだ名を連呼されるまおさんを見ていると、キンパが食べたくなってしまった。
まおさん、そして生春巻きバイトの社員さん二人をとっ捕まえて、韓国料理屋に行くことにした。
*
「オマタセシマシタ、コレキンパネ!」
四人で店に入り注文を済ませ、象ってめっちゃでかいよねーという話で談笑していると韓国人の店員さんがカタコトでキンパを持ってきてくれた。
と思ったが、店員が持っているのは皿ではなくまおさんの首根っこだ。
まおさんの首根っこ?
ふと隣の席を見ると、象がでかいという話で一番爆笑していたはずのまおさんがいない。
そう。まおさんは、金髪というだけで店員にキンパと間違えられてしまったのだ。
そんなこと絶対にあってはならないのに。これだから警察の警備体制が強くなっていく。
「あのー、ぼく、キンパじゃないんですけど。。」
首根っこを掴まれて肩が上がった状態のまおさんが、恐る恐る店員に主張した。
店員は、目を丸くしてまおさんを見つめた後何かに気づいたように「アッ!」と声を出した。
「スミマセン、オマエキンパジャナイネ!オマエハタダキンパツナダケ!オマエワルクナイ!」
せっかく謝っているのに、"オマエ"と呼んでいることによって失礼さが増し増しだ。
店員がまおさんの首根っこをパッと離した。まおさんはよれたTシャツの襟元を正しながら「いやオマエて…」と不機嫌そうに呟いている。
勘違い事件が解決したところで安心したのも束の間。
ウオオオーという叫び声と共に、店内の四方八方から店員たちがまおさんの元に走ってきた。
「あのキンパお兄さんを捕まえろー!!!」
店員の誰かが大きく声を出した。
えっ、ちょっ、えっ?とまおさんは慌てている。一緒に店に来た社員二人は、オナラって臭いよねーという話をしながらチャミスルをグビグビ飲んでいてこの状況に気付いていないようだ。
そして私は、まおさんに降りかかる災難を他人事のように見ながら手を叩いて笑うくらいしかできなかった。
走ってくる店員たちがまおさんに辿り着きそうになったその瞬間。
まおさんは、近くのテーブルにあった本物のキンパを掴み、一つずつ店員たちに投げていった。
キンパを投げるそのフォームは美しく、正確なコントロールで店員たちの口に入り、店員たちは足を止めてキンパをモグモグと食べた。
「ふぁれ…?ほれ、ヒンパら。はのヒンパほにいはん、ヒンパらなふてヒンパツならけは!」
あれ…?これ、キンパだ。あのキンパお兄さん、キンパじゃなくてキンパツなだけだ!
と言っているように聞こえた。
店員たちも目が覚めたのだろう。一人ずつまおさんに「ゴメンネ」と謝り、業務に戻って行った。
「アタシそんなにキンパと間違えられやすいかね?」
独特のちょけた口調でまおさんが私に話しかけてきた。
そんなことより、球体じゃなくて円柱のものも丸いと捉えるんだな〜などと考えていたので無視してしまった。
これが多様性、かな。
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