外出自粛が要請される前に、リアル店舗ができる準備~現場の疲弊をできるだけ軽減するために~
2020年3月25日夜、小池百合子都知事から会見が開かれ、東京都民に向けて週末の不要不急の外出自粛が要請されました。会見内容に応じるかのように近隣県が反応し、普段なら休まない商業施設や実店舗を持つ企業も次々と臨時休業を発表する報道には、胸が熱くなりました。
会見終了直後から、スーパーには食料品を求める人が殺到しました。SNS上では長蛇の列や空っぽになった棚が続々とアップされ、メディアでも混雑状況や品薄状態が次々と報じられました。各種ネットスーパーにもアクセスが殺到したようで、一部では注文を一時受け付けられないほどの状況となりました。
都内の駅近店舗はそもそもの店舗面積が小さく、在庫をストックできる倉庫スペースにも限りがある割に利用者は多いため、構造上、混雑や品薄が起こりやすくなっています。ですがこうした状況は、今後いつどこで起こってもおかしくありません。
そこで筆者の在住している都内23区外で、外出自粛要請が出た翌日のリアル店舗を複数件視察しました。そこで見えてきた状況から、今後、店舗が疲弊しないために取れる対策について考えをまとめます。
<視察条件>
・都民への外出自粛が要請された翌日(2020年3月26日)。
・各店舗の滞在時間は5~10分とし、感染拡大行為となる長時間滞在や会話は行わない。欠品や品薄情報はその時点での目視による。
・「徒歩〇分」はGoogle マップの徒歩時間を参考に、JR主要最寄駅から店までの所要時間として表記。
・行列は各レジに並んでいる人数をカウント。
・A~Gそれぞれの店舗は異なる。
<視察結果>
●住宅街にあるAスーパー(徒歩21分/10:50入店)
レジ6台、行列10~15人
欠品:牛乳、納豆、卵、じゃがいも、サバの味噌煮、冷凍(焼きおにぎり、チャーハン、餃子)
品薄:グラタンなど米ありの弁当系
<メモ>A店は開店間もないこともあってか、視察店舗中で最も混雑。来客年齢層も幅広く、子連れのファミリーや中年夫婦、高齢者、休校中と思われる小学生集団が見られる。レジだけでなくサービスカウンターにも5人の行列。
●ロードサイドのBドラッグストア(徒歩32分/11:10入店)
レジ2台、行列2
欠品:泡ハンドソープ、キャベツ、冷凍(ピザ、餃子)
品薄:消毒ジェル、除菌スプレー、花粉症関連アイテム
<メモ>早い時間帯だからか、目立った欠品はなく除菌できるアルコールタオルが15品陳列。レジは常に稼働しているものの行列はあまりできていない状態で、店内の雰囲気にも比較的余裕が見られる。
●宅配も行っているCスーパー(徒歩34分/11:22入店)
レジ4台、行列なし
欠品:納豆、ピーマン、キャベツ、食パン、米、冷凍(ミンチ、フライ)、パスタ麺、ハンドソープ
品薄:豚肉、麦茶
<メモ>レジに行列は見られないものの、フル稼働。カップ麺、冷凍うどんに関しては個数制限あり。欠品したパスタ麺の棚の前では、パートスタッフと社員が発注数の相談を行っていた。
●酒と大容量が売りのDスーパー(徒歩33分/11:38入店)
レジ4台、行列5
欠品:鶏肉、豚肉、カット野菜、パスタ麺
品薄:ヨーグルト、卵、冷凍うどん、レトルトカレー
<メモ>A店に次ぐ混雑。店内が大規模セールをしていることもあり、欠品も多い。来客層はほぼ中高年が中心で、次々と入店してくる。大容量店という性質もあってか、米を2袋などカゴいっぱいに買物している人が多く見られた。
●Dスーパーの道路向かいにあるコンビニE店(徒歩33分/11:50入店)
レジ2台、行列1
欠品:キッチンタオル、肉入りカット野菜、生パスタ、焼きそば、タケノコ惣菜、おつまみ
<メモ>お昼時ということで昼食を買い求める男性客が増え始めていた。近隣に勤務の利用者が多いのか、視察した中で唯一酒のおつまみが欠品していたのが特長。また他では品薄なポケットティッシュが、ややハイプライスだからか大量に残っていた。
●Dスーパーの道路向かいにあるFドラッグストア(徒歩34分/12:30入店)
レジ2台、行列なし
欠品:ホットケーキミックス、コーンフレーク
品薄:牛乳、卵、納豆
<メモ>トイレットペーパー、ティッシュ類、キッチンタオル、除菌ウェット類など衛生関連用品全ての中から1点の購入制限のため、これらのカテゴリーで欠品が見られなかった近隣では唯一の店舗。生理用品も個数制限あり。
●住宅街にあるGドラッグストア(徒歩19分/13:00入店)
レジ3台、行列1
欠品:ハンドソープ、5食袋麺、納豆、ボックスティッシュ
品薄:生理用品、トイレットペーパー
<メモ>混雑や欠品状況を見ると、通常時と変わらないような印象を受けた。品薄の生理用品、トイレットペーパーは購入制限あり。
会見が決まったら早めの発注
まず店舗は、各都道府県の緊急会見が行われることが分かった時点で売場・倉庫の在庫状況を確認し、早めに発注作業に取り掛かってください。入荷のタイミングは店舗によって異なると思いますが、会見が終わった直後から店舗には人が殺到し、忙しくなることが予想されます。実際、会見中にスーパーにいた夫によると「売場は夜の時間帯(20:30頃)にしては多少混んでいた程度だった」と言います。
店内が混雑してくれば、発注作業ができず時間外残業にもつながります。発注作業が遅れれば、商品入荷にも時間がかかります。上記調査を参考にして、自店で予想される売れ筋商品をできるだけ早く準備して欠品に備えてください。
飲料に関しては学校給食によって余っていることが報じられている牛乳、また子どものことを考えてか麦茶がよく売れる傾向にありました。食料品と同じくいずれも特売・安価のものから売れていく傾向があるので、売価コントロールや品出しで、カテゴリー全体での欠品をできるだけ防いでいくのがポイントです。
中にはパニックで買い占めを行う人もいますが、大多数の人は外出自粛に対応するためにいわば先物買いをしている状態です。各店舗ができる限り欠品を防ぐことは、国民の不要な外出を防ぐこと、ひいてはリスク軽減にもつながるのです。
またいざロックダウンが行われた諸外国での反応を見ていると、食料品の次に求められるのはお菓子や入浴剤など気持ちを落ち着けるものを欲する人が多いようです。今はまだゲームや家庭内での運動器具が主流で注目されていませんが、万一の事態を考えて頭の片隅に入れておいてください。
フリー人員の配置は必須
A店で見られたように、開店直後はお客さまから商品在庫や売場を尋ねられる率が急増します。レジスタッフにこれらの質問をされるとレジの手が止まってしまうため、混雑の元になります。特に開店直後は、自由に動ける人員を準備し、問い合わせに対応することが求められます。
また私が視察したように、駅から距離のある店では、商品全てが空になる店はありませんでした。店ごとに特性はあるものの通常時と同じく特売品から売れていく傾向は変わらないので、上記で自分たちの店舗条件に近しい店を参考に、売価や陳列などを見直してできるだけ欠品を防ぐことが求められます。
欠品はお客さまからの問い合わせ回数を増やす、不安な気持ちを高める、売場としても販売機会ロスにつながるなどメリットはほとんどないので、できるだけ少なくするべきです。
在庫量や商材にもよりますが、売れそうな商品はできるだけ普段より多めに発注をかけてすぐに補充できる体制を整えておくのもベターです。フリー人員は問い合わせ対応の合間に商品補充を行い、視覚的に消費者の不安を減らすのも効果的です。
購入制限はルールを明確に
各店の購入制限に関しては是非がありますが、Fドラッグストアの例を見ると、ニーズを分散化させる意味で一定の成果を上げることも事実です。いざという時に「あの店なら買える」と思ってもらう意味では、再来店やリピーターにつながる可能性もあります。
ただし、Fドラッグストア視察中にはレジでボックスティッシュ5箱を2パック購入する人も見られました。事情があっての対応なのか、社員全員に購入制限ルールが浸透していないのかまでは分かりませんでしたが、購入制限を行う店舗では慎重な運用が求められるとも感じました。
代用品や案内はPOP訴求でカバー
商品在庫についての問い合わせ対応には時間を割かれるため、できるだけ対応回数を減らせるようにする工夫も必要です。
例えば視察していく中で興味深かったのが、泡ハンドソープはどの店でも品薄なのに、固形石鹸や泡ボディーソープはいずれの店でも大量に残っていたことです。厳密に言うと多少用途は違うものの、「肌を洗い清潔に保つ」という意味では、ほぼ用途は同じです。品出しや入荷に時間がかかる場合は、欠品告知よりも代用品に一言POPを付ける方が良いのではと感じました。
同様に、「入荷未定」「お一人様〇個」などの制限や、よく問い合わせを受ける項目に関しても、売場と入り口にPOPを付けるだけでも問い合わせ回数を減らすことができます。体裁を整えてきれいに印字した紙でもかまいませんが、作成に時間をかけるくらいなら段ボールの裏に手書きでもスピードある掲示の方がベターです。
お客さまが来店する以上問い合わせが0にはなりませんが、貴重な人手を商品補充やレジ、発注など運営に最低限必要な業務に振り分けることも大切です。店がうまく回らないことは、現場も、お客さまも、物流・ロジスティクスの人も含め、より多くの人に多大な影響が出るからです。
不安を解消することも大切な仕事
都市封鎖された諸外国の様子を見ていると、スーパーなどの食料品店は営業を続けています。ライフラインに関わる商材を扱う店舗の方は、精神面や体力面を含めて本当に長期戦を強いられることになりそうです。
諸外国での様子を見ていると、スーパーやドラッグストアはライフラインに関わる店舗として外出自粛やロックダウン下でも営業しています。言い換えれば今後も長期戦が覚悟されるため、現場の疲弊はできるだけ最小限に留めたいところです。
既にSNS上では、店舗で働く人たちの疲労や辛さが見えてきています。ですが在庫の問い合わせや補充に関しては、咄嗟の機転や素早い対応で多少は負荷を軽減できる仕事も多いです。
大変な時期ではありますが、たくさんの品物を販売して通常と変わらず営業している店に励まされ、感謝している人も多いです。スタッフの心身を含めての健康管理と衛生面にだけは注意して、営業を続けてほしいと切に願っています。
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本来ならこの原稿は、商業界オンラインで原稿料をいただいて毎週水曜日に掲載されるはずだった連載の原稿でした。諸事情により(「諸事情」は私もまだ説明は受けていませんが、あまりいい話ではないのだとは思います)掲載できないと連絡がきたため、急きょ内容を改変してnoteに載せることにしました。
公開されない=無一文なのでそのまま没でも良かったのですが、多分こういう内容をメディアで伝えている人はあまりいないだろうし、タイミング的に一刻も早く公開するべき内容だと思っての行動です。
振り返れば視察行為自体があまり良い行為ではなかったので、公開することも迷いましたが(この日以降ほとんど外に出ていません)、せっかく時間をかけて書いたものなので、読んでいただければ嬉しいです。
私自身は影響力も少ないですが、連載記事に対しては毎回一定の反応があって何度もランキングに入っていたので、きっと読んでくれている人がいるのだと思います。どなたか必要な人に、役立つ内容として届くことを願っています。
あと、外出がままならないご時世ではありますが、お仕事とサポートも常時募集しています……(切実)
追記