偉人の苦労話は成績を伸ばす?
「モーツァルトは五歳で曲を作曲した」「アインシュタインは昼寝をする中で相対性理論を思いついた」。歴史上の偉人を語る中で、その天才っぷりを示すエピソードは欠かせないものです。こうした人間離れした逸話は聞いていて面白いものですが、実は教育的には必ずしも良いものとは言えないのです。今回は歴史上の偉人について様々な側面から学ぶことによる、教育的な効果に関する研究を紹介します。
キーテーマ
ロールモデル・学力向上・レジリエンス・歴史教育
結論
歴史上の偉人の失敗談や苦労話について学ぶことは、同じ偉人の実績や成功体験について学ぶことに比べて成績に良い影響を及ぼす。
特に学力が低い生徒において、この効果は強く見られた。
例:
「モーツァルトは5才から作曲をはじめ、僅か30年ほどで600曲以上の作曲を行い天才と当時から名高かった。」・・・×(学習効果低)
「神童として有名だったモーツァルトだったが、支援者を見つけることにはとても苦戦し、ウィーン・パリ・ロンドン等の都市を転々とした時期があった。」・・・〇(学習効果高)
実験デザイン
*読みやすさのために要約しています。
中学3年生・高校1年生400人を3つのグループに分け、グループごとに歴史上の著名な科学者(アインシュタイン・キューリー夫人・ファラデー)に関する以下の異なるテーマの文章を与えた。
1. その科学者の実績・偉業を紹介する文章
2. その科学者が研究の中で直面した困難に関する文章
3. その科学者が研究外(生活面・家庭環境など)で直面した困難に関する文章
各グループの生徒は5週間、割り振られたテーマに該当する異なる文章を与え続けられた。
実験終了後、各グループにおける生徒の科学の成績の変化(先学期の成績に対して)が測定された。
結果、グループ2・グループ3、すなわち科学者の苦労話に関する文章を読んだグループにおいてより大きい成績の向上が見られた。
留意点
統計的に有意な効果は見られたものの、学力変化の程度は小さかったようです。
実際の学校の授業内で長期にわたって実験が行われたため、文章以外にも成績に関与した要素が存在した可能性は否定できません。
エビデンスレベル:観察研究
編集後記
偉人たちの過去の実績を天才の他人事として捉えるのではなく、彼女らの努力に注目することが重要なんですね。ロールモデルに親近感を持つことが、彼女らに近づく最初の一歩目なのかもしれません。
文責:山根 寛
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過去記事のまとめはこちらから。
Lin-Siegler, X., Ahn, J. N., Chen, J., Fang, F.-F. A., & Luna-Lucero, M. (2016). Even Einstein struggled: Effects of learning about great scientists’ struggles on high school students’ motivation to learn science. Journal of Educational Psychology, 108(3), 314–328. https://doi.org/10.1037/edu0000092
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