モチベーション古典シリーズ①:欲求のピラミッド
*モチベーション古典シリーズとは、現代のモチベーションに関する学問分野の礎となっているような研究を紹介する試みです。
「私たちはなぜ行動するのか。」だいぶ茫洋とした問いですが、考えたことはないでしょうか?この質問に対する一つの答えとして、人は己のあらゆる欲求を満たすために行動し続ける、という一説があります。心理学においては比較的古くから唱えられてきたこの説ですが、現代社会でもマネジメント・社会学などの文脈において根強い指示を誇っています。今回は、人間が持つあらゆる欲求とは何か、それらはどう体系化できるのか、ということを世に示したマズロー(Maslow)の研究を紹介いたします。
キーテーマ
モチベーション・欲求・マネジメント・行動原理・古典・観察
主題・結論
人の欲求は大きく分けて五つに分かれており、これらの欲求は階層をなしている。
人はこの階層に沿った欲求を下から満たしていくような形で行動する。
下の階層を完全に満たさないと次の欲求に進めないというわけではなく、大まかな傾向として、下の階層を満たした方が上位の欲求に進みやすい、というイメージ。
五段階の欲求(下段から紹介します)
生理的欲求:生物として生存するために必要とする要素を求める欲求。
例:食欲・性欲・睡眠欲安全欲求:病気・見知らぬ環境・不慮の事態・戦争など、身に危険を及ぼしうる事態を避ける欲求。
例:予測していない大きな音が近くで起きたり、知らない環境におかれたときに身を守ろうとする。社会的欲求:周囲の社会とのより親密な関係を求める欲求。
例:家族・友情・恋人を求める。承認欲求:周囲から評価され、認められる欲求。
例:名声・注目を集めようとする。より高い技術を身に着けようとする。自己実現欲求:自身の価値観に基づいて、自分がありたいと思う姿になろうとする欲求。
例:他者の評価に基づいたものではない、自身が達成したい目標のために行動する。
考察・応用例
欲求の階層
一般的に、下段の欲求がある程度満たされないと上の欲求に意識が向かないとされています。
例えば、学校において生徒に発言させたり、褒めることで勉強意識を高めようとしても(社会的欲求・承認欲求に働きかける)、そもそも生徒が学校環境において安心欲求が満たされていると感じていなければ効果は薄くなってしまいます。
「知る欲求」について
上の五段階の欲求に加えて、「知る欲求」を加えたモデルも人気を誇ります。我々が探究活動を行うのは社会的地位を向上させるため、自己実現のための「手段」ではなく、知的好奇心そのものが我々が満たしたいと思う「目的」であるという考え方です。
階層の超越
人間は通常この階層に沿って行動しますが、自身の倫理感や正義感により、この階層を一時的に覆す状況も考えられます(国を守るために戦争で戦う、災害時に食べ物を譲り合う等)。マズローが唱えた仮説として、幼いころから下段の欲求が常に満たされてきた人物ほど、こうして階層を超越した行動を起こしやすいというものがあります。
まとめ
人は大きく分けて五つの階層に分かれた欲求を持ち合わせており、これらの欲求を段階的に満たすために行動している。
留意点
この五つの階層はマズローが唱えたものであり、階層数や分類の仕方が異なる多くのモデルが存在します。「階層が具体的に何か」というより、「欲求には階層が存在する」という考え方の方が本質的かもしれません。
この説はマズローが人間の観察を通して作成したモデルです。科学的根拠があるものとしてではなく、一つの考え方として捉えるべきものだと考えます。
エビデンスレベル:専門家による意見
編集後記
「確かに」「あるある」と感じた人も多かったのではないでしょうか。当たり前といえば当たり前な気もしますが、こうした我々が日々なんとなく感じる感覚が体系化されると面白いですよね。
欲求が行動の原理である、という考え方は学問的には現在主流であるとは言えません。しかし、マズローのモデルがモチベーションの分野において根幹をなす研究の一つであることは間違いないでしょう。
文責:山根 寛
Maslow, A. H. (1943). A theory of human motivation. Psychological Review, 50(4), 370–396. https://doi.org/10.1037/h0054346
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